腹話術の台本は、人形を「ボケ」、自分を「ツッコミ」にして、人形に本音や勝手なことを言わせると作りやすくなります。人形のセリフは短くし、唇を閉じる音(ま行・ば行・ぱ行)をなるべく入れないのが、腹話術ならではの書き方のコツです。
この記事では、人形のキャラクターの決め方から、掛け合いの型、セリフの書き方までを順に説明します。後半には、見習いコックの人形と演じる約2分半の台本例と、練習の進め方を紹介します。
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腹話術の台本は「人形がボケ、自分がツッコミ」が基本
腹話術は、演じる人が口をほとんど動かさずに人形の声を出し、人形と会話しているように見せる芸です。この記事では、演じる人のことを「術者」と呼びます。
台本では、人形におかしなことを言わせ、術者がそれを受けて正す形が基本です。人形は、人が言うと角が立つ本音やわがままを言っても、かわいげがあるので憎まれません。術者は、お客さんが思ったことを代わりに口にする役になります。
| くらべる点 | 人形 | 術者 |
|---|---|---|
| 役割 | ボケ。本音、勘違い、わがままを言う | ツッコミ。人形の言葉を受けて正す |
| 話し方 | 短く、ぶっきらぼう | ふつうの長さで、ていねい |
| セリフの長さ | 1回20字以内 | 長くてもよい |
| 見せたいもの | かわいげと生意気さ | 人形に振り回される困り顔 |
ボケとツッコミの役割の分け方は、「ボケとツッコミの決め方」でも詳しく紹介しています。
人形のキャラクターの決め方
台本を書く前に、人形がどんな人物かを決めておきます。次の5つを決めると、セリフが自然に浮かぶようになります。
- 名前(術者が呼びやすく、人形も言いやすい名前)
- 子どもか大人か
- 性格(食いしん坊、心配性、知ったかぶりなど)
- 口ぐせ(同じ言葉をくり返すと、それだけで笑いになる)
- 術者との関係(相棒、弟分、ペットなど)
人形の見た目と性格を合わせると、お客さんにすぐ伝わります。コック帽をかぶった人形なら料理の話、鳥の人形なら空や木の話、というように、話題も見た目から選ぶと迷いません。
| 人形の例 | 性格 | 口ぐせ | 笑いの作り方 |
|---|---|---|---|
| 見習いコックの少年 | 食いしん坊で、調子がいい | 「試食係だから」 | どんな話も、食べる話に持っていく |
| 物知りのふりをする鳥 | 知ったかぶり | 「それは、知ってた」 | まちがった知識を、自信たっぷりに言う |
| 心配性の小さな犬 | 何でも気にする | 「だいじょうぶ?」 | 小さなことを、大げさに心配する |
| のんびりしたカメ | すぐ眠くなる | 「……ん?」 | 大事なところで、寝ている |
名前は、人形が自分で名乗る場面があるので、唇を閉じる音が入らないものにしておくと楽です。この記事の台本の「ソースケ」は、どの音も唇を動かさずに言えます。
人形にも言わせないこと
人形に言わせると、きつい言葉もかわいく聞こえることがあります。それでも、客席の人の見た目や年齢をからかう言葉は、人形が言っても笑えません。からかう相手は、術者自身にしぼりましょう。
掛け合いで笑わせる5つの型
人形と術者のやりとりは、次の5つの型に当てはめると作りやすくなります。1本の台本では、型を2〜3個にしぼると、話がまとまります。
| 型 | どんなやりとりか | 例 |
|---|---|---|
| 本音を言う | 術者が聞きにくいことを、人形がそのまま言う | 術者「ぼくの話、どうだった?」 人形「……寝てた」 |
| 答えがずれる | 質問の意味を、人形が取りちがえる | 術者「大きくなったら、何になりたい?」 人形「おとな」 |
| 術者をからかう | 人形が術者の失敗を見つけて言う | 術者「さあ、始めようか」 人形「台本、さかさだよ」 |
| 客席を巻きこむ | 人形が客席に直接話しかける | 人形「(客席に)ここ、笑うところ」 術者「自分で言わないの」 |
| 言うことを聞かない | 人形がすねたり、横を向いたりする | 術者「次は、歌ってみようか」 人形「(横を向いて)……やだ」 |
いちばん作りやすいのは「本音を言う」型です。術者が少し得意げに質問し、人形が短くばっさり答えるだけで、笑いが起きます。
腹話術ならではのセリフの書き方
腹話術の台本は、ふつうの漫才やコントの台本と書き方が少しちがいます。術者が口を動かさずに言えるか、お客さんが聞き取れるかを考えながら書きます。
人形のセリフは短く、1回20字以内に
腹話術の声は、口の動きを抑えるぶん、ふつうの声より聞き取りにくくなります。人形のセリフは、1回20字以内を目安に短く切りましょう。長い説明が必要なときは、術者のセリフに回します。
唇を閉じる音を、人形のセリフから外す
ま行・ば行・ぱ行は、唇を閉じないと出しにくい音です。人形のセリフには、この3つの行の音をなるべく入れないように書くと、口元が動いて見えにくくなります。言いたいことは、別の言葉に言いかえます。
| 唇を閉じる音が入る言葉 | 人形に言わせるときの言いかえ |
|---|---|
| ありがとうございます | ありがとう |
| すみません | しつれい |
| もう一回 | あと一回 |
| 見て | ほら、あれ |
| ちょっと待って | ちょっと、ちょっと |
| ママ、パパ | おかあさん、おとうさん |
どうしても言いかえられない言葉は、術者が言うようにします。人形が「あれ、あれ」と指し、術者が「バナナね」と受ける形なら、自然な掛け合いにもなります。
人形の言葉を、術者がくり返す
人形のセリフのあとに、術者が同じ言葉をくり返すと、聞き取れなかったお客さんにも内容が届きます。人形「寝てた」、術者「寝てたの?」のように、くり返しがそのままツッコミになるので、台本にあらかじめ書きこんでおきましょう。
人形の動きと間も書いておく
人形が黙って横を向く、首をかしげる、術者の顔をじっと見る、といった動きは、セリフ以上に笑いを生みます。台本には、動きをかっこの中に書いておきます。黙っている時間(間)の取り方は「漫才の間とテンポの取り方」も参考になります。
約2分半の台本例「試食係のソースケ」
見習いコックの人形「ソースケ」との掛け合いです。ソースケのセリフには、ま行・ば行・ぱ行の音を入れていません。最後のあいさつも、「ありがとうございました」ではなく「ありがとう」にしています。
- 時間
- 約2分半
- 人数
- 1人(人形1体)
- 準備物
- 口が開け閉めできる人形(手を入れて動かすもの)、いす
- 難しさ
- ★★★
台本試食係のソースケ(約2分半)
(いすに座り、ソースケをひざの上にのせる。ソースケは客席を向いている)
術者みなさん、こんにちは。今日は、相棒を連れてきました。ソースケくんです。
ソースケこんにちは。ソースケです。
(ソースケ、ゆっくり客席を見回す)
ソースケ……人、多いね。
術者緊張してる?
ソースケしてない。(術者の顔を見て)そっちが、してる。
術者……ちょっとね。ソースケくんは、レストランでコックの修業をしてるんだよね。
ソースケそう。きょうで、四日。
術者まだ四日か。お店では、どんな仕事をしてるの?
ソースケ試食係。
術者試食係? そんな係、あるの?
ソースケある。おれが作った。
術者自分で作ったの?
ソースケ料理は作れないけど、係は作れる。
術者作るものが、ちがうでしょ。じゃあ、得意な料理は?
ソースケカレー。
術者すごいじゃない。どうやって作るの?
ソースケレンジで、チン。
術者それは、温めただけでしょ。
ソースケチンの音には、自信がある。
術者音を出してるのは、レンジだよ。……そういえば、きのう、ぼくが作ったカレーを食べたよね。どうだった?
(ソースケ、ゆっくり顔をそらす)
ソースケ……。
術者なんで黙るの。
ソースケ言っていいの?
術者いいよ。
ソースケ辛かった。
術者辛かった? ちょっとね。
ソースケ固かった。
術者じゃがいもがね。
ソースケこげてた。
術者もう、いいよ。
ソースケだけど、おかわりした。
術者(少し間をおいて)……おかわり、したんだ。
ソースケ試食係だから。
術者(客席に)こういうところがあるから、きらいになれないんです。じゃあ最後に、みなさんにひと言。
ソースケこんど、レストランに来てね。
術者おっ、いいね。
ソースケ試食係が、ひと口ずつ、のこしておくね。
術者ひと口しか残らないの? 全部のこしておいてよ。ありがとうございました。
ソースケありがとう。
(ソースケと一緒に、おじぎをする)
この台本の組み立て
「試食係」が3回出てくる、くり返しの笑いが軸です。1回目で自己紹介として見せ、2回目で「おかわりした理由」、3回目で最後のあいさつに使っています。真ん中の感想の場面が「本音を言う」型で、術者のくり返しがそのままツッコミになっています。
発声と練習の基本
腹話術の声は、唇を軽く開いたまま止め、舌の動きで言葉を作ります。最初は鏡の前で、口を少し開けた形のまま「あいうえお」「かきくけこ」と言う練習から始めましょう。人形の声は、自分の声より少し高くするか低くすると、2人の声が分かれて聞こえます。
声の出し方そのものは、「お笑いの発声練習」で紹介している練習が土台になります。台本ができたら、次の順番で仕上げていきます。
- 人形のセリフだけを、唇を動かさずに読む
- 声に合わせて人形の口を開け閉めし、言い終わったらしっかり閉じる
- 術者のセリフも入れて、台本を通す
- 人形の目線をつける(話している相手を見る)
- スマホで撮り、口元と人形の動きを確かめる
4の目線は、思っている以上に大切です。術者が話しているあいだも、人形が術者のほうを見てうなずいていると、本当に生きているように見えます。
本番の前に確かめること
- 人形のセリフが、客席のいちばん後ろまで聞こえるか(マイクに近づける)
- 人形の顔が、客席から見える角度になっているか
- いすの高さで、人形をひざにのせやすいか
- 人形の服や帽子が、動かしているうちにずれないか
よくある質問
どうしても口が動いてしまいます。
完全に止めなくても大丈夫です。人形の頭や口を大きめに動かすと、お客さんの目は人形のほうに向きます。唇を閉じる音を減らすだけでも、口元はかなり目立たなくなります。
人形は何を使えばいいですか?
口が開け閉めできて、手を入れて動かすタイプの人形が扱いやすいです。靴下や紙袋で手作りすることもできます。作り方は「余興の小道具を手作りするには?」の考え方が応用できます。
子ども向けと大人向けで、台本は変えたほうがいいですか?
変えると、より伝わります。子ども向けなら、人形が客席に質問して、答えてもらう場面を増やします。大人や年配の人が多い場では、人形が本音を言う型や、術者をからかう型がよく合います。施設で演じるときの進め方は「介護施設・デイサービスの出し物」でも紹介しています。
まとめ
- 腹話術の台本は、人形がボケ、術者がツッコミの形が基本
- 人形は、名前・性格・口ぐせ・術者との関係を先に決める
- 人形のセリフは1回20字以内で、ま行・ば行・ぱ行をなるべく入れない
- 人形の言葉を術者がくり返すと、聞き取りやすく、ツッコミにもなる
- 練習は、人形のセリフ、口の動き、目線の順に足していく






