お笑いで「通る声」を出すには、声を大きくするより、姿勢・息・声を向ける先の3つを整えるのが近道です。大声を張り上げると、のどが疲れるうえに、セリフに強弱がつけにくくなります。毎日10分ほどの発声練習を続けると、ふつうの大きさの声でも、言葉が客席の後ろまで届きやすくなります。
この記事では、発声の基本と毎日10分の練習メニュー、漫才やコントのセリフで練習できるオリジナルの滑舌練習文を紹介します。滑舌とは、言葉を一音ずつはっきり言えているかどうかのことです。
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大声と「通る声」は違う
通る声とは、大きな声のことではなく、離れた所でも言葉がはっきり聞き取れる声のことです。大声で押し切る話し方と比べると、違いは次のとおりです。
| くらべる点 | 大声で押す話し方 | 通る声の話し方 |
|---|---|---|
| 声の出し方 | のどに力を入れて張り上げる | 吐く息に声を乗せる |
| 聞こえ方 | 語尾が割れたり、つぶれたりする | 語尾まで聞き取れる |
| 強弱 | 全部のセリフが同じ大きさになる | 大事なセリフだけ強くできる |
| のどへの負担 | すぐかれて、2回目の本番がつらい | 長く話しても疲れにくい |
お笑いでは、声の「差」が笑いを助けます。ふつうの声で話していて、ツッコミだけを強く短く言うから、ツッコミが目立つのです。最初から大声だと、強く言いたい所で、それ以上の声が出せません。
発声の基本は「姿勢・息・声を向ける先」
姿勢:力を抜いて、まっすぐ立つ
足を肩幅くらいに開き、頭のてっぺんを上から糸で引っぱられているつもりで立ちます。肩とあごの力を抜き、ひざは軽くゆるめておきましょう。猫背になったり、あごが上がったりすると、のどがせまくなって声がこもります。
息:お腹をふくらませて吸い、細く長く吐く
声は、吐く息に乗って出ていきます。吸ったときにお腹がふくらむ呼吸(腹式呼吸)を意識すると、たくさんの息を、少しずつ安定して吐けるようになります。お腹に手を当てて、吸うとふくらみ、吐くとへこむかを確かめてみましょう。
声を向ける先:客席のいちばん後ろの壁
声は、目線の先に向かって飛んでいきます。足元や相方の顔ばかり見て話すと、声も近くで落ちてしまいます。客席のいちばん後ろの壁に声のボールを当てるつもりで話すと、自然に口が開き、言葉がはっきりします。
毎日10分の発声練習メニュー
次のメニューを、上から順に行います。全部で10分ほどなので、朝の身じたくの前や、ネタ合わせの前の準備運動にも使えます。
| 順番 | 練習 | 時間 | やり方 |
|---|---|---|---|
| 1 | 体をゆるめる | 1分 | 肩を回し、首をゆっくり左右に倒す。あくびをするように大きく口を開ける |
| 2 | 息を長く吐く | 2分 | 鼻から4秒で吸い、「スー」と細く長く吐く。3回くり返し、吐く時間を少しずつのばす |
| 3 | ロングトーン | 2分 | 「あー」を同じ高さ・同じ大きさで10秒のばす。3回くり返す |
| 4 | 声を遠くに当てる | 2分 | 部屋の反対側の壁の1点を見て、「はい」「おーい」をその点に届ける |
| 5 | 滑舌の練習文 | 2分 | 下の練習文を、ゆっくり→ふつうの速さの順に読む |
| 6 | セリフで仕上げ | 1分 | ネタのツッコミを3つ選び、強さを変えて言う |
ロングトーンとは、1つの音を同じ調子で長くのばす練習のことです。途中で声がふるえたり小さくなったりする所は、息が足りなくなっている所です。毎日続けると、のばせる長さが少しずつ変わっていくのが分かります。
家で練習するときは、時間帯と声の大きさに気をつけましょう。息の練習と滑舌の練習文は、小さな声でもできます。大きめの声を出す練習は昼間にするか、カラオケの個室などを使うと安心です。
本番前の5分でする準備
本番の日は、10分のメニューを短くして、出番の30分ほど前にやっておきます。
- 肩と首をゆっくり回して、力を抜く
- 「スー」と細く長く吐く息の練習を3回する
- 口を閉じたまま「んー」と鼻歌のように声を出し、顔のまわりが軽くふるえるのを感じる
- ネタの最初のセリフを、小さな声で2回言う
3の「んー」は、ハミングと呼ばれる準備運動です。のどに負担をかけずに、声を出す準備ができます。控え室など、大きな声を出せない場所でもできます。
漫才・コントのセリフで練習する滑舌練習文
ネタの中でかみやすいのは、ツッコミのような短く強いセリフと、登場やあいさつのような決まった言い回しです。次の練習文は、舞台でよく使う言葉を、行ごとに集めて作りました。1行ずつ、まずゆっくり、次にふつうの速さで読みましょう。
(た行)立ち位置チェック、ちょっと近い、つっこむ手つきは、ていねいに。
(さ行)さっきのすべりを察して、そっと次のセリフにすすむ。
(か行)かけ合いのきっかけ、くり返し聞けば、けっこう決まる、ここ一番。
(ぱ行)手をパチパチ、ぺこりとおじぎ、ポンと前に出て、ピタッと止まる。
(な行)なんでなんでと、何度もたずねて、ぬけぬけ答える、のんきな相方。
(は行)はじめはひかえめ、ふつうの声で、へんに張らずに、ほどよく話す。
(ら行)練習六回、リズムは崩さず、ろれつも回って、ラストまで。
読むときは、速さより、文の最後の音まではっきり言うことを大事にします。「つっこむ」「パチパチ」のような小さい「っ」の入る言葉は、つまる所で一瞬止まるつもりで読みましょう。あ行からわ行まで、行ごとの練習文をもっと読みたい人は「滑舌の練習文」も使ってください。
ネタの中で声を使い分けるコツ
通る声が出せるようになったら、ネタの中で声を使い分けます。声の大きさだけでなく、速さと高さを変えることでも、強弱はつけられます。
| 言い方 | 使う場面 | コツ |
|---|---|---|
| 強く短く | ツッコミ | 最初の音をはっきり立てて、語尾はのばさない |
| 高めに | 驚いたとき・役の声 | のどを締めずに、目線を少し上げる |
| 低くゆっくり | まじめなフリ・ためる場面 | 語尾を下げきって、文を言い切る |
| 小さく | ささやき・ひとりごとのボケ | 口の形ははっきり作り、マイクに少し近づく |
下は、声の大きさと速さを変える練習用の短い台本です。( )の中の言い方を守って、2人で読んでみましょう。
台本声の強さを変える練習(約20秒)
A(低く、ゆっくり)今日は、まじめな話があります。
B(ふつうの声で)うん、どうしたの。
A(小さく)……冷蔵庫のプリン、食べたの、僕です。
B(強く、短く)まじめな話って、それかよ。
前の3行で声を落としておくと、最後のツッコミは、張り上げなくてもよく目立ちます。「……」の所でひと呼吸おくと、さらに効果が上がります。セリフのあいだの時間の取り方は、「漫才の間とテンポの取り方」で紹介しています。
声が届いているかを確かめる方法
自分の声がどこまで届いているかは、自分では分かりにくいものです。練習の仕上げに、次のどちらかの方法で確かめましょう。
2人で離れて掛け合う
相方と5メートルほど離れて立ち、ネタの一部を掛け合います。聞いている側は、聞き取れない言葉があったら手を挙げます。全部聞き取れたら、さらに離れて同じことをくり返し、本番の会場のいちばん後ろの席までの距離を目指しましょう。
離れた所にスマホを置いて録音する
部屋のいちばん奥にスマホを置き、反対側からネタを通して録音します。聞き返して、語尾やツッコミが聞き取れない所に印をつけましょう。近くで録った声とくらべると、届いていない言葉がはっきり分かります。
のどを守るために気をつけること
お笑いの練習は、同じセリフを何度もくり返すので、気づかないうちにのどを使いすぎてしまいます。次のことに気をつけて、本番に声を残しておきましょう。
- 本番の直前に、大声で何度も通さない
- 練習の合間に、常温の水を少しずつ飲む
- 空気が乾いている日は、マスクや加湿でのどを守る
- せきばらいを何度もしない(のどに負担がかかる)
- 声がかれたら、その日は声を出す練習をやめる
のどの痛みが続くときは
声のかすれや、のどの痛みが何日も続くときは、練習を休みましょう。気になるときは、耳鼻咽喉科で相談してください。
よくある質問
声が小さいと言われます。大きな声を出す練習をすればいいですか?
いきなり大声を出すより、まず「声を向ける先」を変えてみましょう。相方の顔や足元ではなく、客席のいちばん後ろを見て話すだけで、声の届き方は変わります。そのうえで、メニューの「声を遠くに当てる」練習を続けると、無理なく声が前に出るようになります。
緊張すると、声がふるえたり、うわずったりします。
緊張すると息が浅くなり、声が高くうわずりやすくなります。出番の前に、メニューの「息を長く吐く」練習を2〜3回やっておくと、落ち着いて声を出しやすくなります。人前に出ること自体がつらい人は、「あがり症で人前が怖い人へ」も参考にしてください。
マイクのある会場なら、発声練習はいらないですか?
マイクが助けてくれるのは声の大きさだけで、言葉のはっきりさまでは変えてくれません。むしろ、息がふらつく声や語尾が消える声は、マイクを通すと目立ちます。マイクとの距離や立ち方は「漫才の立ち位置とマイクの使い方」で説明しています。
まとめ
- 通る声は、大声ではなく、離れた所でも言葉がはっきり聞き取れる声
- 姿勢・息・声を向ける先の3つを整えると、張り上げなくても声が届く
- 毎日10分、体をゆるめる→息→ロングトーン→遠くに当てる→滑舌→セリフの順に練習する
- ネタの中では、大きさだけでなく速さと高さでも強弱をつける
- 本番の直前に大声で通しすぎず、のどの痛みが続くときは休む






