笑いは、「普通はこうだ」と思っていたことから、少しずれたことが起きたときに生まれます。ネタ作りでは、このずれを「予想を裏切る」形で見せたり、「緊張と緩和」の流れにのせたりすると、笑いが起きやすくなります。
笑いの仕組みにはいろいろな説明がありますが、ここではネタ作りにそのまま使える3つに絞りました。それぞれを例文で説明し、最後にネタへ組み込む手順を紹介します。
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仕組み1 ずれ|「普通」と少しちがう
笑いのいちばんの元は、ずれです。ずれとは、お客さんが知っている「普通」と、目の前で起きていることの違いのことです。普通を知っているからこそ、違いに気づいて笑えます。
毎朝ジョギングをしています。家の中で。
コーヒーは、ブラックしか飲みません。砂糖を5杯入れて。
人見知りはしないほうです。犬には。
どれも、前半で「普通」を思い浮かべさせ、後半でそれとずらしています。ずれ方には、大きく分けて次の3つがあります。
| ずれ方 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 言葉のずれ | 言いまちがい、意味の取りちがえ | 「お皿を下げて」と言われて、自分の頭を下げる |
| 行動のずれ | 場違いなこと、大げさなこと | 図書館で、ささやき声のまま全力で応援する |
| 立場のずれ | 役割や上下が入れかわる | 新人が、部長に仕事の心がまえを教える |
ずれは、小さすぎると気づかれず、大きすぎると何の話か分からなくなります。最初は小さめのずれから始め、少しずつ大きくしていくと、お客さんがついてきやすくなります。ずれ方をもっと細かく分けた型は、「ボケの種類一覧」で例文つきで紹介しています。
仕組み2 予想を裏切る|フリで期待させて外す
ずれを笑いにするには、お客さんに「次はこうなるはず」と予想させてから外すのが近道です。予想させるための前置きを「フリ」、それを外すことを「ボケ」と呼びます。
よく使われるのが、3つ並べて3つ目で外す形です。2つ目までで「この流れか」と思わせ、3つ目で予想と違うものを出します。
休みの日は、映画を見て、本を読んで、そのあと3時間かけて昼寝の準備をします。
得意料理は、カレーと、肉じゃがと、レンジで温めるごはんです。
部屋にあるのは、ベッドと、机と、まだ組み立てていない本棚です。
予想が強いほど、外れたときの笑いは大きくなります。そのため、フリはお客さんが迷わない、ありふれた言葉で作ります。前半に置いたフリを最後に効かせる作り方は、「ネタの伏線回収のやり方」でくわしく紹介しています。
予想どおりが笑いになることもある
反対に、お客さんの予想どおりのことが起きて笑いになる場合もあります。同じボケを何度もくり返す「天丼」がその代表です。
1回目はずれとして笑い、2回目で「また来た」と気づき、3回目は「来るぞ」と待ちかまえたところに来るので笑いになります。お客さんが自分の予想が当たったことを楽しむ形で、これも予想を使った笑いの1つです。
仕組み3 緊張と緩和|張りつめた空気をゆるめる
緊張と緩和は、笑いの説明としてよく知られた考え方です。まじめな空気や張りつめた空気が、ふっとゆるんだ瞬間に笑いが起きやすくなります。
たとえば、静まりかえった会議で深刻な話が始まりそうなのに、出てきたのがとても小さなことだったとします。張りつめていた分だけ、ゆるんだときの笑いが大きくなります。
(静まりかえった会議室で、部長が深刻な顔で立ち上がる)
部長「みんなに、伝えなければならないことがある」
部長「……給湯室の電気ポット、今日からボタンの位置が変わります」
緊張を作るには、声を落とす、ゆっくり話す、黙る時間を作る、といった方法があります。この黙る時間を「間(ま)」といい、間の取り方は「漫才の間とテンポの取り方」で練習できます。
この流れは、逆向きにも使えます。笑いが続いてゆるんだ空気のあとに、まじめな一言を置くと、その言葉がまっすぐ届きます。結婚式の余興で、笑わせたあとに最後だけまじめにお祝いを言う形は、この使い方です。
笑いになるずれ、ならないずれ
ずれがあれば、いつでも笑いになるわけではありません。お客さんが「心配」「痛そう」「かわいそう」と感じると、笑いは止まります。笑いになるのは、安心して見ていられるずれです。
| 笑いになりやすいずれ | 笑いになりにくいずれ |
|---|---|
| 誰もが知っている場面でのずれ | 知らない人が多い、専門的な場面でのずれ |
| 物や状況、言葉がずれている | 人の見た目や年齢、出身をからかっている |
| 本人がちょっと困る、小さな失敗 | 誰かが本当に傷ついたり、痛がったりする |
| ツッコミで「ずれている」と示される | ずれたまま放っておかれ、お客さんが戸惑う |
ツッコミとは、ボケのずれを指摘して、「ここが笑いどころです」とお客さんに知らせる役目です。ツッコミがあると、お客さんは安心して笑えます。
人を下げる笑いは使わない
人の見た目や年齢、性別、出身、病気をからかう笑いは、その場にいる誰かを傷つけます。ずれは、人ではなく物や状況、言葉で作りましょう。
3つの仕組みをネタに組み込む手順
ここまでの3つは、1本のネタの中で組み合わせて使えます。次の順番で考えると、仕組みを形にしやすくなります。
- 場面の「普通」を1行で書く(例:大事な発表は、重い内容のことが多い)
- お客さんに予想させるフリを作る(例:封筒、深刻な声、「1年隠してきた」という言葉)
- 緊張を作る所を1か所決める(例:封筒をゆっくり開ける)
- ずれを用意し、小さいものから順に並べる(例:スタンプがたまった→押してもらうのに3か月)
- ツッコミでずれを言葉にする(例:「隠すほどのこと?」)
- 最後にもう一度緊張を作り、いちばん大きなずれでゆるめて終わる
この手順で作った、2人の短いネタです。
- 時間
- 約40秒
- 人数
- 2人
- 準備物
- 封筒、ポイントカード(紙で作ったものでよい)
- 難しさ
- ★★
台本重大発表(約40秒)
(AとBが並んで立つ。Aが真剣な顔で封筒を取り出す)
A今日は、大事なお知らせがあります。
Bえ、急にどうしたの。
Aこの1年、ずっと隠してきたことです。
(Aが封筒をゆっくり開ける。Bが息をのむ)
A……ポイントカードのスタンプが、全部たまりました。
B隠すほどのこと?
A最後の1個を押してもらうのに、3か月かかりました。
Bもっと買い物に行けばよかったでしょ。
Aそして、もう1つ発表があります。
(Aがまた真剣な顔になる)
Aこのカード、きのうで期限が切れていました。
Bそれが今日いちばんの重大発表だよ。
封筒を開けるまでが緊張、スタンプの話がずれによる緩和です。「もう1つ発表があります」で、同じ形をもう一度使っています。最後は、ためたスタンプが無駄になるという、いちばん大きなずれでゆるめます。
ウケないときは仕組みから原因を探す
ネタを演じて思ったほど笑いが起きなかったときも、3つの仕組みに分けて考えると、直す所が見つけやすくなります。
| お客さんの様子 | 考えられる原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| ボケのあと、きょとんとしている | 「普通」が伝わっていない | フリを1行足すか、もっと身近な場面にする |
| 笑いはあるが小さい | 予想が弱いか、ずれが小さい | フリをはっきりさせ、ずれを大きくする |
| 途中から笑いが減っていく | 同じずれ方が続き、先が読まれている | 言葉・行動・立場と、ずれ方を変える |
| 最初から最後まで同じ調子 | 緊張を作る所がない | 声を落とす所や、黙る間を1か所作る |
| 笑わずに、ざわついている | 安心して見られないずれになっている | ずれの相手を、人から物や状況に変える |
直すときは、一度に全部を変えずに、表の上から1つずつ試しましょう。録画を見ながら原因を探す順番は、「ネタがウケない原因と直し方」でくわしく紹介しています。
よくある質問
仕組みを知れば、面白いネタが書けますか?
仕組みは、ネタを考えたり直したりするときの道具です。知っているだけで笑いが取れるわけではないので、書いて、声に出して、人に見てもらって確かめることが欠かせません。ウケなかったときに、「フリが弱かったのか」「ずれが小さかったのか」と原因を考えるときに特に役立ちます。
人によって笑う所が違うのはなぜですか?
何を「普通」と思っているかが、人によって違うからです。年代や仕事、住んでいる地域によって、知っている「普通」は変わります。ネタを作るときは、誰の前で演じるかを先に決めておくと、ずれが伝わりやすくなります。
スピーチや挨拶にも使えますか?
使えます。まじめな話の途中に小さなずれを1つ入れるだけでも、会場の空気がやわらぎます。くわしい入れ方は「スピーチで笑いを取るコツ」で紹介しています。
まとめ
- 笑いは、お客さんが知っている「普通」からのずれで生まれる
- フリで予想させてから外すと、ずれが笑いになりやすい
- 張りつめた空気をゆるめる「緊張と緩和」で、笑いを大きくできる
- 安心して見られるずれだけが笑いになる。人をからかうずれは使わない
- ネタでは、普通→フリ→緊張→ずれ→ツッコミの順に組み込む






