ネタの素材は、特別な出来事より、毎日見ている場面の中にあります。見慣れた場面に「なぜ?」「もし〜だったら?」と問いをかけ、普通とずれている所をメモしていくと、ボケの種が自然に集まります。
この記事では、観察メモの取り方、違和感を見つけるための10の問い、集めた素材をボケに変える手順を、例と一緒に紹介します。特別な道具はいらないので、今日の帰り道から始められます。
ネタの素材は「みんなが知っている場面」にある
笑いは、お客さんが知っている「普通」から、少しずれた所で起きます。このずれをわざと作って見せるのが、ボケです。だから素材にするのは、多くの人が見たことのある場面がいちばんです。
めずらしい体験談は、聞く人が「普通」を知らないので、どこがずれているのかが伝わりにくくなります。素材が見つかりやすい場所と、見る所の例は次のとおりです。
| 場所 | 素材になりやすいもの |
|---|---|
| 駅・電車 | アナウンスの言い回し、改札の前での立ち止まり方 |
| スーパー・お店 | 試食のすすめ方、値札の言葉、レジの列の並び方 |
| 職場 | 会議の決まり文句、電話の受け答え、メールのあいさつ |
| 家の中 | 家電の音、リモコンの置き場所、朝の支度の順番 |
| 季節の行事 | 大掃除、年賀状、運動会の場所取り |
どれも、わざわざ出かけなくても毎日目にするものです。素材は探しに行くより、いつもの場所で気づくものと考えると、毎日少しずつ集まります。ずれが笑いになる理由は、「笑いが起きる仕組み」でくわしく説明しています。
観察メモの取り方
観察とは、いつもの場面を、少しだけ気をつけて見ることです。見たことはすぐに忘れてしまいやすいので、短くメモしておきます。
- 観察する時間を決める(通勤の電車の中、昼休みのお店など)
- 見たことを、感想を入れずに事実だけ1行で書く
- 気になった言葉は、聞こえたとおりに書く(言い回しがそのまま素材になる)
- その場で面白くしようとしない。ボケにするのはあとでよい
- 1日に3つ集めれば十分、と決めておく
朝:ビルの自動ドアの前で、全員が少し手前で止まってから進む
昼:小さなお店の入り口に「すぐ戻ります」の札。1時間後に通っても、まだかかっていた
夜:スーパーの試食。すすめる声は大きいのに、一切れはとても小さい
メモの書き方の型や、あとで見返す方法は「ネタ帳の作り方と使い方」にまとめています。
観察するときに守ること
人をじっと見つめたり、無断で写真を撮ったり、会話を録音したりするのはやめましょう。メモには名前や、誰のことか分かる書き方を残しません。見た目や年齢、話し方のくせなど、その人自身をからかう素材にもしないでください。
曜日ごとに観察のテーマを決める
何となく見ているだけでは、素材はなかなか残りません。曜日ごとに見るものを決めておくと、同じ景色の中でも目が止まる所が変わります。
| 曜日 | 観察のテーマ | 見る所の例 |
|---|---|---|
| 月 | 駅・電車 | アナウンス、乗りかえの案内、ホームでの並び方 |
| 火 | お店の言葉 | 店員さんの決まり文句、値札や手書きの広告の言い回し |
| 水 | 張り紙・看板 | 「〜しないでください」の注意書き、営業時間の札 |
| 木 | 職場や学校の決まり事 | 会議の始まり方、朝のあいさつ、メールの書き出し |
| 金 | 家の中の物 | 家電の音、なくなりやすい物、使っていない物 |
| 土 | 人が集まる場所 | 公園、行列、イベントの受付 |
| 日 | 見返し | 1週間のメモに問いをかけて、気になるものに印をつける |
違和感を見つける10の問い
観察メモがたまったら、それぞれに問いをかけてみます。違和感とは、「なんだか変だな」と引っかかる感じのことです。問いをかけると、ただの出来事の中から、その引っかかりが見つかります。
| 問い | 見つかった素材の例 |
|---|---|
| 1. なぜ、みんな同じことをしているのか | 自動ドアの前で、全員が一度止まる |
| 2. 言葉どおりに受け取ったらどうなるか | 「足元にご注意ください」で、足元だけを見て歩く |
| 3. 言うこととやることがずれていないか | 「すぐ戻ります」の札が、1時間かかったまま |
| 4. 大げさにしたらどうなるか | 試食の一切れが、つまようじの先くらいになる |
| 5. 立場を逆にしたらどうなるか | 客のほうが店員に「何かお探しですか」と聞く |
| 6. 人以外がそれをしたらどうなるか | 自動ドアが、入る人を見て開くか迷う |
| 7. 何のためにあるのか分からない物はないか | 使い方の分からない、洗濯機のボタン |
| 8. 時期をずらしたらどうなるか | 年賀状を、夏から書き始める人 |
| 9. 場所を変えたらどうなるか | 駅のアナウンスの言い方で、家族に晩ごはんを知らせる |
| 10. 自分だけがやっていることはないか | 傘を持って出た日だけ、天気予報を何度も見る |
全部の問いを使う必要はありません。1つのメモに2〜3個の問いをかけて、引っかかりが大きくなるものを選びましょう。問い2・5・9は、そのままボケの形にもなりやすい問いです。ずらし方の型は「ボケの種類一覧」でも確かめられます。
集めた素材をボケに変える手順
違和感が見つかったら、まずその素材を使うかどうかを確かめます。
素材として使うか迷ったときに確かめること
- 多くの人が見たことのある場面か
- 「〜なとき」と一言で説明できるか
- 誰かをからかったり、傷つけたりしないか
- 自分が話していて楽しい話題か
使うと決めたら、次の順番でボケにしていきます。
- 素材の「普通」を1行で書く(例:駅のアナウンスは、ていねいな決まった言い方をする)
- 10の問いから1つ選び、ずらし方を決める(例:場所を変える)
- ずらした結果を、セリフか動きにする(例:家で母が、アナウンスの言い方で晩ごはんを知らせる)
- 誰が言うと面白いかを決める(例:ふだんはおっとりした母)
- 受ける側の一言をつける(例:「普通に呼んでよ」)
5番目の一言は、ツッコミと呼ばれます。ボケのずれを指摘して、お客さんに笑いどころを知らせる役目です。4番目の「誰が言うか」を決めると、同じボケでも言い方や続きが考えやすくなります。
素材からボケを作った例
手順どおりに作った例を、表と短い台本で紹介します。表は、観察メモからボケにした4つの例です。
| 見たこと | 使った問い | できたボケ |
|---|---|---|
| 自動ドアの前で、全員が一度止まる | 6. 人以外がそれをしたら | 自動ドアのほうが人を見て、開くか迷う |
| 「すぐ戻ります」の札が、1時間かかったまま | 3. 言うこととやることのずれ | 札の横に「もう少しで戻ります」「たぶん戻ります」と札が増えていく |
| 試食の一切れがとても小さい | 4. 大げさにしたら | 試食の店員が、ようじだけを笑顔で配っている |
| 傘を持って出た日だけ、天気予報を何度も見る | 10. 自分だけがやっていること | 雨が降らないと、傘に「ごめんね」と謝りながら帰る |
次は、問い9「場所を変えたら」から作った、家族の短い掛け合いです。
- 時間
- 約30秒
- 人数
- 2人
- 準備物
- おたま(マイクのかわり)
- 難しさ
- ★
台本駅のアナウンス風の晩ごはん(約30秒)
(家の台所。母がおたまをマイクのように持つ)
母まもなく、晩ごはんがまいります。食卓の前で、一列に並んでお待ちください。
子普通に呼んでよ。
母本日のからあげは、1人3個での運行となっております。
子からあげは運行しないでしょ。
母おかわりをご希望のお客様は、次のごはんをご利用ください。
子次っていつ。明日の朝?
素材が1つでも、言い回しを3回ずらすと短いネタになります。駅のアナウンスのように、誰もが聞いたことのある決まった言い方は、それだけで良い素材です。
よくある質問
素材は、自分が体験したことでないとだめですか?
そんなことはありません。見たこと、聞こえた言葉、季節の行事など、多くの人が知っている場面なら何でも素材になります。自分の体験を使う場合も、ほかの人が「分かる」と思える部分を中心にすると伝わりやすくなります。
ニュースや話題の出来事を素材にしてもいいですか?
実在の人をからかうものや、事件や災害など、つらい思いをした人がいる出来事は避けましょう。話題の出来事は、時間がたつとお客さんに伝わらなくなることもあります。長く使えるのは、毎日の暮らしの中の場面です。
素材は集まるのに、ボケが思いつきません。
ずらし方を先に1つ決めてから考えると、ボケが出やすくなります。まずは10の問いのうち、「言葉どおりに受け取ったら」と「場所を変えたら」の2つだけを、すべての素材にかけてみましょう。それでも出ないときは、言う人を変えると見え方が変わります。
集まった素材が、どれも小さな話ばかりです。
小さな話のほうが、ネタの素材には向いています。「それ、ある」と感じてもらえると、そこから笑いが起きやすくなるからです。共感で笑わせる作り方は「あるあるネタの作り方」で紹介しています。
まとめ
- ネタの素材は、多くの人が知っている毎日の場面の中にある
- 観察メモは、感想を入れずに見たことを1行で書き、1日3つを目安に集める
- 集めたメモに「なぜ?」「逆にしたら?」などの問いをかけて、違和感を見つける
- ボケにするときは、ずらし方・言う人・受ける一言の順に決める
- 人をじっと見たり、その人自身をからかったりする素材にはしない






