落語風の一人芝居は、座ったまま顔の向きを左右に変えて、1人で何人もの人物を演じ分ける芸です。押さえたいのは、人物ごとに向く方向を決める「上下(かみしも)」と、扇子と手ぬぐいを別の物に見せる「見立て」の2つです。この2つができれば、初めてでも形になります。
この記事では、上下の決め方と見立ての例を説明したうえで、そのまま演じられる約3分のオリジナルの噺(はなし)の台本を紹介します。自分で短い噺を作る手順と、練習のしかたもまとめました。
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落語風の一人芝居とは?一人コントとのちがい
落語は、座布団に座った1人の演者が、語りと会話だけで物語を進める芸です。ここでいう「落語風の一人芝居」は、その演じ方を借りて、自分で考えた短い話を演じるものを指します。宴会の出し物や学校の発表会、動画にも取り入れやすい形です。
同じ1人の芸でも、立って演じる一人コントとは、見せ方が大きくちがいます。
| くらべる点 | 落語風の一人芝居 | 一人コント |
|---|---|---|
| 姿勢 | 座ったまま、上半身だけで演じる | 立って、舞台の上を動く |
| 相手の見せ方 | 顔の向きを変え、自分が両方の人物になる | 見えない相手に話しかけ、相手のセリフは想像させる |
| 道具 | 扇子と手ぬぐいを、いろいろな物に見立てる | 小道具や衣装を使うことが多い |
| 場面の変え方 | 語りで「さて、次の日のこと」と伝える | 暗転や音、人の出入りで変える |
見えない相手と話す形のほうが合いそうなら、「一人コントの作り方」も見てみてください。
落語風の噺は、3つの部分でできています。本題の前に話す短い前置きを「まくら」、物語の部分を「本題」、最後の笑いを「サゲ」と呼びます。サゲは、漫才でいうオチのことです。
上下(かみしも)で人物を演じ分けるコツ
上下とは、人物ごとに顔を向ける方向を変えて、誰が話しているかを見せる方法です。舞台では、客席から見て右側を上手(かみて)、左側を下手(しもて)と呼びます。
誰がどちら側にいるかを決める
落語では、目上の人や家の中にいる人を上手に、目下の人や外から来た人を下手に置くことが多いです。2人は向かい合っているので、話すときは相手のいる側を向きます。
| 人物の例 | いることにする側 | セリフを言うときに向く方向 |
|---|---|---|
| 目上の人や、家・店の中にいる人(大家、店主、先生など) | 上手(客席から見て右) | 下手(自分から見て右の斜め前) |
| 目下の人や、外から訪ねてきた人(友人、客、生徒など) | 下手(客席から見て左) | 上手(自分から見て左の斜め前) |
決まりを全部覚えられなくても大丈夫です。いちばん大事なのは、一度決めた向きを最後まで変えないことです。途中で入れかわると、お客さんは誰のセリフなのか分からなくなります。
顔だけを向け、体は正面のまま
上下は、首から上だけで切りかえます。体ごと横を向くと、客席から顔が見えにくくなるからです。真横までは向かず、斜め前を見るくらいでとめましょう。
人物のセリフではない説明の部分、つまり語りは、正面を向いて話します。「正面は語り、右と左は人物」と分けておくと、聞く人が迷いません。
目線の高さで、相手の大きさと距離を見せる
目線の高さを変えると、目の前にいない相手の姿まで伝わります。子どもと話すときは少し下を、二階にいる人に呼びかけるときは上を見ます。遠くにいる人には、目線を遠くに置き、声を少し張ります。
声と口調は少し変えるだけでよい
声色を大きく変える必要はありません。店主は語尾を「〜だよ」「〜かい」、客はていねいな「〜です」にする、くらいの差で十分です。口調のちがいと顔の向きがそろうと、人物がはっきり分かれます。
切りかえの合図は「ひと呼吸」
人物が入れかわるときは、先に顔を振り、ひと呼吸おいてから話し始めます。顔を振りながら話すと、セリフの頭がどちらの人物のものか、あいまいになります。
扇子と手ぬぐいの見立て
見立てとは、ある物を、別の物に見せることです。落語風の一人芝居では、扇子と手ぬぐいの2つだけで、食べ物から手紙まで、場面に出てくる物をほとんど表せます。
| 道具 | 持ち方・しぐさ | 見立てる物の例 |
|---|---|---|
| 扇子(閉じる) | 箸を持つ手の形で持ち、口元へ運ぶ | 箸 |
| 扇子(閉じる) | ペンのように持ち、手ぬぐいの上で動かす | ペン、筆 |
| 扇子(閉じる) | 逆さに持ち、手首で軽く振る | コショウや調味料のびん |
| 扇子(閉じる) | 耳と口のあいだに当てる | 電話、スマホ |
| 扇子(閉じる) | 両手で前に構え、くいっと引く | 釣りざお |
| 扇子(開く) | 胸の前で平らに持つ | お盆、本 |
| 手ぬぐい(たたむ) | 開いて中をのぞく | 財布、手帳 |
| 手ぬぐい(広げる) | 両手で持ち、目で文字を追う | 手紙、新聞、伝票 |
| 手ぬぐい(丸める) | 両手で包み、熱そうに持ちかえる | 焼き芋、肉まん |
見立てを伝えるコツは、物の形より、重さや温度を手で見せることです。焼き芋なら熱そうに持ちかえ、財布なら中のお札を数えるように指を動かします。お客さんは、手の動きから物を思い浮かべます。
道具は身近な物で代わりになる
扇子は、あおぐための普通の扇子で十分です。手ぬぐいがなければ、無地のハンカチや薄いタオルでも練習できます。本番では、派手な柄より落ち着いた色のほうが、見立てた物に見えやすくなります。
そのまま演じられる約3分の台本「こだわりのラーメン屋」
上下と見立てをひと通り使える、オリジナルの短い噺です。客は下手にいて上手を向き、店主は上手にいて下手を向いて話します。
- 時間
- 約3分
- 人数
- 1人
- 準備物
- 扇子1本、手ぬぐい1枚、座布団(なければ、いす)
- 難しさ
- ★★
台本こだわりのラーメン屋(約3分)
(座布団に座り、扇子と手ぬぐいをひざの前に置いて一礼。まくらは正面を向いて語る)
語り世の中には、行列が好きな人というのがおりまして。行列を見ると、何のお店か分からなくても、とりあえず並ぶ。前の人に「何の行列ですか」と聞くと、その人も知らない。
語り二人で首をかしげているうちに、後ろにまた人が並んで、行列はどんどん長くなる。先頭まで行ってみたら、ただのバス停だった、なんてこともあるそうで。
語り今日は、そんな行列のできる、こだわりのラーメン屋のお話でございます。
(ここから、客は上手(客席から見て右)を、店主は下手(客席から見て左)を向いて話す)
客こんにちは。一人なんですが、入れますか。
店主いらっしゃい。そこへ座っとくれ。お客さん、うちは初めてかい。
客はい。表で一時間並びました。
店主じゃあ、まず壁の張り紙を読んでもらおうか。
客(上を見上げて)「当店のきまり。その一、ラーメンが来たら、まず三秒、黙って眺めること」。
店主うちのは、見た目から味わうラーメンなんでね。
客「その二、最初のひと口は、スープから」。
店主麺から行かれると、スープがすねるんだよ。
客スープがすねる。……「その三、コショウをかけるときは、店主にひと声かけること」。
店主黙ってかけられると、こっちの胸が痛むんでね。
客はあ、分かりました。
店主へい、お待ち。(両手でどんぶりを差し出す)
客(両手で受け取って)おお、いいにおい。いただきま……おっと、三秒だ。(どんぶりをじっと見つめる)
店主……。
客……。
店主長い、長い。三秒だよ。
客いや、あんまりきれいなもんで、見とれちまって。では、スープから。(どんぶりを持ち上げて、ひと口飲む)……うまい。
(割り箸を割るしぐさをしてから、扇子を箸に見立てて持つ)
客次は麺だ。(麺を持ち上げ、ふうふう冷ましてから、勢いよくすする)……うまい。これなら、コショウは要らないな。
店主……かけないのかい。
客え?
店主いや、ひと声かけられたときの返事を、毎朝、練習してるもんでね。
客返事の練習。……じゃあ、かけます。あのう、コショウをかけても、よろしいでしょうか。
店主(胸を張って)どうぞ。
客……それだけですか。
店主それだけだよ。いい返事だったろう。
客(扇子を逆さに持ち、びんのように振って)ぱっ、ぱっ。(箸に持ちかえて、すする)……うまい。あっという間に食べちまった。ごちそうさま。お勘定を。
店主へい。(紙を差し出す)
客(手ぬぐいを広げて受け取り、じっと見つめる)……。
店主お客さん、伝票は眺めなくていいんだよ。
客いえ、わたしにも、きまりがありまして。「値段を見たら、まず三秒、黙って落ちつくこと」。
(正面に向き直り、一礼)
この台本の組み立て
「三秒」が3回出てきます。張り紙で決まりを見せ、次に長く見つめすぎて笑わせ、最後は客が自分のきまりとして言いかえて、サゲにしています。店主と客が「……」で黙る所は、顔を左右に振るだけの間です。黙っている人物にも、きちんと顔を向けましょう。
短い噺を自分で作る手順
台本の形が分かったら、自分の噺も作ってみましょう。最初は3分ほどを目安にすると、覚えやすく、練習もしやすくなります。
- 人物を2人にしぼり、上手と下手に分ける
- 場所を1つに決める(店、家の玄関、駅のベンチなど)
- 見立てに使う物を2〜3個決める
- 本題につながる小さな話を、まくらとして1つ用意する
- 同じやりとりを、少しずつ形を変えて3回くり返す
- サゲを決めてから、そこへ向かうように本題を整える
5のくり返しは、お笑いでいう天丼(同じボケをくり返す方法)です。1回目で形を見せ、3回目で変えると、サゲにつなげやすくなります。くり返しの組み立ては「天丼のやり方」で詳しく説明しています。
初めてでも作りやすいサゲの型
| サゲの型 | どんな終わり方か | 例 |
|---|---|---|
| 立場が入れかわる | 言われていた側が、最後に言う側に回る | きまりを守らされた客が、最後に自分のきまりを言う |
| しぐさで落とす | 最後の動きで、言葉にしなかったことを伝える | 逃がした魚の大きさを自慢していた男が、「で、釣れたのは?」と聞かれ、手ぬぐいを小さくたたんで見せる |
| まくらに戻る | まくらで話した言葉に最後でもう一度ふれ、ひとひねりして終わる | まくらで「早起きは三文の得」と話し、最後に「三文は得したが、朝ごはんを食べそびれた」で終わる |
ダジャレで落とす形もありますが、無理に作ると説明が長くなりがちです。初めての噺なら、上の3つから選ぶと組み立てやすくなります。サゲが弱いと感じたら、「漫才のオチの作り方」の直し方も参考になります。
ほかの人の噺をそのまま使わない
昔から語りつがれている噺を演じる場合も、特定の演者の高座(舞台)を書き起こし、そのまま覚えるのは避けましょう。録画や音声を書き写した台本は、その人の表現をまねることになります。どこから問題になるかは「漫才のネタに著作権はある?」で確かめられます。
練習のしかたと本番の準備
上下は、頭で分かっていても、通して演じると入れかわりやすいところです。次の順番で、1つずつ足していきましょう。
- 台本のセリフに、上手を向く人物と下手を向く人物で、色のちがう線を引く
- 顔を動かさずに、声だけで最後まで読む
- 顔の向きだけをつけて、小さな声で通す
- 扇子と手ぬぐいのしぐさを入れる
- スマホで正面から撮り、向きが入れかわっていないか見る
- 家族や友人に見てもらい、誰が話しているか分からなかった所を聞く
撮った動画は、音を消して見るのがおすすめです。顔の向きとしぐさだけで人物が分かれば、上下がきちんとできています。
本番の前に確かめること
- 座布団やいすを置く場所から、客席全体に顔が見えるか
- 座ったときの口の高さに、マイクを合わせられるか
- 扇子と手ぬぐいを、使わないときに置く場所(ひざの前など)
- 正座で足がしびれない長さか(長いときは、いすに座る)
- 持ち時間に合っているか(3分の噺は、本番で少し延びる)
よくある質問
正座が苦手です。いすに座って演じてもいいですか?
大丈夫です。いすに浅く座り、背すじを伸ばせば、上下も見立てもそのままできます。宴会場や教室なら、いすのほうが客席から顔が見やすいこともあります。
人物を3人出したいときは、どうしますか?
1つの場面で話す人物は、2人までにするのがおすすめです。3人目を出すときは、場面を変えて「今度は別の2人が話す」形にすると、向きの決まりが崩れません。どうしても3人を同時に出すなら、顔を振る角度の深さと口調で、はっきり分けましょう。
着物がなくても落語風になりますか?
なります。無地のシャツやセーターなど、柄の少ない服なら、手の動きがよく見えます。座布団と扇子があるだけで、お客さんには落語風だと伝わります。
まとめ
- 落語風の一人芝居は、顔の向きで人物を演じ分ける「上下」が土台
- 目上や中にいる人は上手、目下や外から来た人は下手に置き、向きを最後まで変えない
- 扇子と手ぬぐいは、重さや温度を手で見せると、別の物に見える
- 短い噺は、人物2人・場所1つ・くり返し3回・サゲの順に組み立てる
- 練習は、声だけ、向き、しぐさの順に足し、音を消した動画で確かめる
ほかに1人でできる芸を探しているなら、「ピン芸の種類と作り方」も参考にしてください。






