落語風の一人芝居の作り方|上下(かみしも)で演じ分けるコツ

座布団に座り、扇子を箸に見立てて食べるしぐさをする着物姿の男性

落語風の一人芝居は、座ったまま顔の向きを左右に変えて、1人で何人もの人物を演じ分ける芸です。押さえたいのは、人物ごとに向く方向を決める「上下(かみしも)」と、扇子と手ぬぐいを別の物に見せる「見立て」の2つです。この2つができれば、初めてでも形になります。

この記事では、上下の決め方と見立ての例を説明したうえで、そのまま演じられる約3分のオリジナルの噺(はなし)の台本を紹介します。自分で短い噺を作る手順と、練習のしかたもまとめました。

目次目次を閉じる目次を開く
  1. 落語風の一人芝居とは?一人コントとのちがい
  2. 上下(かみしも)で人物を演じ分けるコツ
  3. 扇子と手ぬぐいの見立て
  4. そのまま演じられる約3分の台本「こだわりのラーメン屋」
  5. 短い噺を自分で作る手順
  6. 練習のしかたと本番の準備
  7. よくある質問
  8. まとめ

落語風の一人芝居とは?一人コントとのちがい

落語は、座布団に座った1人の演者が、語りと会話だけで物語を進める芸です。ここでいう「落語風の一人芝居」は、その演じ方を借りて、自分で考えた短い話を演じるものを指します。宴会の出し物や学校の発表会、動画にも取り入れやすい形です。

同じ1人の芸でも、立って演じる一人コントとは、見せ方が大きくちがいます。

くらべる点落語風の一人芝居一人コント
姿勢座ったまま、上半身だけで演じる立って、舞台の上を動く
相手の見せ方顔の向きを変え、自分が両方の人物になる見えない相手に話しかけ、相手のセリフは想像させる
道具扇子と手ぬぐいを、いろいろな物に見立てる小道具や衣装を使うことが多い
場面の変え方語りで「さて、次の日のこと」と伝える暗転や音、人の出入りで変える

見えない相手と話す形のほうが合いそうなら、「一人コントの作り方」も見てみてください。

落語風の噺は、3つの部分でできています。本題の前に話す短い前置きを「まくら」、物語の部分を「本題」、最後の笑いを「サゲ」と呼びます。サゲは、漫才でいうオチのことです。

上下(かみしも)で人物を演じ分けるコツ

上下とは、人物ごとに顔を向ける方向を変えて、誰が話しているかを見せる方法です。舞台では、客席から見て右側を上手(かみて)、左側を下手(しもて)と呼びます。

誰がどちら側にいるかを決める

落語では、目上の人や家の中にいる人を上手に、目下の人や外から来た人を下手に置くことが多いです。2人は向かい合っているので、話すときは相手のいる側を向きます。

人物の例いることにする側セリフを言うときに向く方向
目上の人や、家・店の中にいる人(大家、店主、先生など)上手(客席から見て右)下手(自分から見て右の斜め前)
目下の人や、外から訪ねてきた人(友人、客、生徒など)下手(客席から見て左)上手(自分から見て左の斜め前)

決まりを全部覚えられなくても大丈夫です。いちばん大事なのは、一度決めた向きを最後まで変えないことです。途中で入れかわると、お客さんは誰のセリフなのか分からなくなります。

顔だけを向け、体は正面のまま

上下は、首から上だけで切りかえます。体ごと横を向くと、客席から顔が見えにくくなるからです。真横までは向かず、斜め前を見るくらいでとめましょう。

人物のセリフではない説明の部分、つまり語りは、正面を向いて話します。「正面は語り、右と左は人物」と分けておくと、聞く人が迷いません。

目線の高さで、相手の大きさと距離を見せる

目線の高さを変えると、目の前にいない相手の姿まで伝わります。子どもと話すときは少し下を、二階にいる人に呼びかけるときは上を見ます。遠くにいる人には、目線を遠くに置き、声を少し張ります。

声と口調は少し変えるだけでよい

声色を大きく変える必要はありません。店主は語尾を「〜だよ」「〜かい」、客はていねいな「〜です」にする、くらいの差で十分です。口調のちがいと顔の向きがそろうと、人物がはっきり分かれます。

切りかえの合図は「ひと呼吸」

人物が入れかわるときは、先に顔を振り、ひと呼吸おいてから話し始めます。顔を振りながら話すと、セリフの頭がどちらの人物のものか、あいまいになります。

扇子と手ぬぐいの見立て

見立てとは、ある物を、別の物に見せることです。落語風の一人芝居では、扇子と手ぬぐいの2つだけで、食べ物から手紙まで、場面に出てくる物をほとんど表せます。

道具持ち方・しぐさ見立てる物の例
扇子(閉じる)箸を持つ手の形で持ち、口元へ運ぶ箸
扇子(閉じる)ペンのように持ち、手ぬぐいの上で動かすペン、筆
扇子(閉じる)逆さに持ち、手首で軽く振るコショウや調味料のびん
扇子(閉じる)耳と口のあいだに当てる電話、スマホ
扇子(閉じる)両手で前に構え、くいっと引く釣りざお
扇子(開く)胸の前で平らに持つお盆、本
手ぬぐい(たたむ)開いて中をのぞく財布、手帳
手ぬぐい(広げる)両手で持ち、目で文字を追う手紙、新聞、伝票
手ぬぐい(丸める)両手で包み、熱そうに持ちかえる焼き芋、肉まん

見立てを伝えるコツは、物の形より、重さや温度を手で見せることです。焼き芋なら熱そうに持ちかえ、財布なら中のお札を数えるように指を動かします。お客さんは、手の動きから物を思い浮かべます。

道具は身近な物で代わりになる

扇子は、あおぐための普通の扇子で十分です。手ぬぐいがなければ、無地のハンカチや薄いタオルでも練習できます。本番では、派手な柄より落ち着いた色のほうが、見立てた物に見えやすくなります。

そのまま演じられる約3分の台本「こだわりのラーメン屋」

上下と見立てをひと通り使える、オリジナルの短い噺です。客は下手にいて上手を向き、店主は上手にいて下手を向いて話します。

時間
約3分
人数
1人
準備物
扇子1本、手ぬぐい1枚、座布団(なければ、いす)
難しさ
★★

台本こだわりのラーメン屋(約3分)

(座布団に座り、扇子と手ぬぐいをひざの前に置いて一礼。まくらは正面を向いて語る)

語り世の中には、行列が好きな人というのがおりまして。行列を見ると、何のお店か分からなくても、とりあえず並ぶ。前の人に「何の行列ですか」と聞くと、その人も知らない。

語り二人で首をかしげているうちに、後ろにまた人が並んで、行列はどんどん長くなる。先頭まで行ってみたら、ただのバス停だった、なんてこともあるそうで。

語り今日は、そんな行列のできる、こだわりのラーメン屋のお話でございます。

(ここから、客は上手(客席から見て右)を、店主は下手(客席から見て左)を向いて話す)

客こんにちは。一人なんですが、入れますか。

店主いらっしゃい。そこへ座っとくれ。お客さん、うちは初めてかい。

客はい。表で一時間並びました。

店主じゃあ、まず壁の張り紙を読んでもらおうか。

客(上を見上げて)「当店のきまり。その一、ラーメンが来たら、まず三秒、黙って眺めること」。

店主うちのは、見た目から味わうラーメンなんでね。

客「その二、最初のひと口は、スープから」。

店主麺から行かれると、スープがすねるんだよ。

客スープがすねる。……「その三、コショウをかけるときは、店主にひと声かけること」。

店主黙ってかけられると、こっちの胸が痛むんでね。

客はあ、分かりました。

店主へい、お待ち。(両手でどんぶりを差し出す)

客(両手で受け取って)おお、いいにおい。いただきま……おっと、三秒だ。(どんぶりをじっと見つめる)

店主……。

客……。

店主長い、長い。三秒だよ。

客いや、あんまりきれいなもんで、見とれちまって。では、スープから。(どんぶりを持ち上げて、ひと口飲む)……うまい。

(割り箸を割るしぐさをしてから、扇子を箸に見立てて持つ)

客次は麺だ。(麺を持ち上げ、ふうふう冷ましてから、勢いよくすする)……うまい。これなら、コショウは要らないな。

店主……かけないのかい。

客え?

店主いや、ひと声かけられたときの返事を、毎朝、練習してるもんでね。

客返事の練習。……じゃあ、かけます。あのう、コショウをかけても、よろしいでしょうか。

店主(胸を張って)どうぞ。

客……それだけですか。

店主それだけだよ。いい返事だったろう。

客(扇子を逆さに持ち、びんのように振って)ぱっ、ぱっ。(箸に持ちかえて、すする)……うまい。あっという間に食べちまった。ごちそうさま。お勘定を。

店主へい。(紙を差し出す)

客(手ぬぐいを広げて受け取り、じっと見つめる)……。

店主お客さん、伝票は眺めなくていいんだよ。

客いえ、わたしにも、きまりがありまして。「値段を見たら、まず三秒、黙って落ちつくこと」。

(正面に向き直り、一礼)

この台本の組み立て

「三秒」が3回出てきます。張り紙で決まりを見せ、次に長く見つめすぎて笑わせ、最後は客が自分のきまりとして言いかえて、サゲにしています。店主と客が「……」で黙る所は、顔を左右に振るだけの間です。黙っている人物にも、きちんと顔を向けましょう。

短い噺を自分で作る手順

台本の形が分かったら、自分の噺も作ってみましょう。最初は3分ほどを目安にすると、覚えやすく、練習もしやすくなります。

  1. 人物を2人にしぼり、上手と下手に分ける
  2. 場所を1つに決める(店、家の玄関、駅のベンチなど)
  3. 見立てに使う物を2〜3個決める
  4. 本題につながる小さな話を、まくらとして1つ用意する
  5. 同じやりとりを、少しずつ形を変えて3回くり返す
  6. サゲを決めてから、そこへ向かうように本題を整える

5のくり返しは、お笑いでいう天丼(同じボケをくり返す方法)です。1回目で形を見せ、3回目で変えると、サゲにつなげやすくなります。くり返しの組み立ては「天丼のやり方」で詳しく説明しています。

初めてでも作りやすいサゲの型

サゲの型どんな終わり方か例
立場が入れかわる言われていた側が、最後に言う側に回るきまりを守らされた客が、最後に自分のきまりを言う
しぐさで落とす最後の動きで、言葉にしなかったことを伝える逃がした魚の大きさを自慢していた男が、「で、釣れたのは?」と聞かれ、手ぬぐいを小さくたたんで見せる
まくらに戻るまくらで話した言葉に最後でもう一度ふれ、ひとひねりして終わるまくらで「早起きは三文の得」と話し、最後に「三文は得したが、朝ごはんを食べそびれた」で終わる

ダジャレで落とす形もありますが、無理に作ると説明が長くなりがちです。初めての噺なら、上の3つから選ぶと組み立てやすくなります。サゲが弱いと感じたら、「漫才のオチの作り方」の直し方も参考になります。

ほかの人の噺をそのまま使わない

昔から語りつがれている噺を演じる場合も、特定の演者の高座(舞台)を書き起こし、そのまま覚えるのは避けましょう。録画や音声を書き写した台本は、その人の表現をまねることになります。どこから問題になるかは「漫才のネタに著作権はある?」で確かめられます。

練習のしかたと本番の準備

上下は、頭で分かっていても、通して演じると入れかわりやすいところです。次の順番で、1つずつ足していきましょう。

  1. 台本のセリフに、上手を向く人物と下手を向く人物で、色のちがう線を引く
  2. 顔を動かさずに、声だけで最後まで読む
  3. 顔の向きだけをつけて、小さな声で通す
  4. 扇子と手ぬぐいのしぐさを入れる
  5. スマホで正面から撮り、向きが入れかわっていないか見る
  6. 家族や友人に見てもらい、誰が話しているか分からなかった所を聞く

撮った動画は、音を消して見るのがおすすめです。顔の向きとしぐさだけで人物が分かれば、上下がきちんとできています。

本番の前に確かめること

  • 座布団やいすを置く場所から、客席全体に顔が見えるか
  • 座ったときの口の高さに、マイクを合わせられるか
  • 扇子と手ぬぐいを、使わないときに置く場所(ひざの前など)
  • 正座で足がしびれない長さか(長いときは、いすに座る)
  • 持ち時間に合っているか(3分の噺は、本番で少し延びる)

よくある質問

正座が苦手です。いすに座って演じてもいいですか?

大丈夫です。いすに浅く座り、背すじを伸ばせば、上下も見立てもそのままできます。宴会場や教室なら、いすのほうが客席から顔が見やすいこともあります。

人物を3人出したいときは、どうしますか?

1つの場面で話す人物は、2人までにするのがおすすめです。3人目を出すときは、場面を変えて「今度は別の2人が話す」形にすると、向きの決まりが崩れません。どうしても3人を同時に出すなら、顔を振る角度の深さと口調で、はっきり分けましょう。

着物がなくても落語風になりますか?

なります。無地のシャツやセーターなど、柄の少ない服なら、手の動きがよく見えます。座布団と扇子があるだけで、お客さんには落語風だと伝わります。

まとめ

  • 落語風の一人芝居は、顔の向きで人物を演じ分ける「上下」が土台
  • 目上や中にいる人は上手、目下や外から来た人は下手に置き、向きを最後まで変えない
  • 扇子と手ぬぐいは、重さや温度を手で見せると、別の物に見える
  • 短い噺は、人物2人・場所1つ・くり返し3回・サゲの順に組み立てる
  • 練習は、声だけ、向き、しぐさの順に足し、音を消した動画で確かめる

ほかに1人でできる芸を探しているなら、「ピン芸の種類と作り方」も参考にしてください。

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