ネタ中にセリフが飛んだら、まず黙りこまないことを優先し、直前のセリフをくり返すか、次の場面の頭まで飛ばして進みましょう。お客さんは台本を知らないので、言葉が少し変わっても、まず気づかれません。相方と「飛んだときの合図」を決めておけば、数秒の間で立て直せます。
この記事では、その場でつなぐ5つの型と一言の例、相方がフォローするときのセリフ、前もって決めておく対策をまとめました。「飛ぶ」とは、緊張などで頭が真っ白になり、次のセリフが出てこなくなることです。
セリフが飛んだ瞬間にやること
セリフが飛ぶと、あわてて言葉を探そうとして、沈黙が長くなりがちです。次の順番を体に覚えさせておくと、落ち着いて立て直せます。
- ひと呼吸だけ置く(あわてて言葉を探さない)
- 相方の顔を見て、飛んだことを目で伝える
- 「戻る」か「進む」かを決める
- 立て直したら、元のテンポで続ける
3で迷ったら、「進む」を選ぶのが基本です。前に戻って言い直すより、次の場面から話し始めるほうが、お客さんにはずっと自然に見えます。
お客さんは台本を知らない
セリフが1つ抜けても、ボケの言い方が少し変わっても、お客さんには分かりません。分かってしまうのは、演じている側があわてた顔をしたときです。表情を変えずに続ければ、飛んだことに気づかれずに済むこともよくあります。
その場でつなぐ5つの型
立て直し方は、次の5つの型に分けられます。どの型を使うかは、飛んだ場所と、残りの時間で選びます。
| 型 | やり方 | つなぎの一言の例 |
|---|---|---|
| 1. くり返す | 直前のセリフを、少し言葉を変えてもう一度言う | 「だから、さっきも言ったけど」 |
| 2. 聞き返す | 相方に質問して、次のセリフを引き出してもらう | 「で、どうなったんだっけ?」 |
| 3. 次の場面に飛ばす | 思い出せない所は捨てて、次の場面の頭から話す | 「それより、〜の話なんだけど」 |
| 4. 笑いに変える | 飛んだことを、軽く言ってしまう | 「すみません、今セリフが家出しました」 |
| 5. 締めに向かう | 戻れないときは、締めのあいさつに進む | 「とにかく、そういうことです」 |
1. くり返す
直前のセリフを、少し言葉を変えてくり返します。声に出しているうちに、次のセリフを思い出せることがよくあります。ボケ役なら話の設定を言い直す、ツッコミ役なら直前のツッコミをもう一度言う形です。
2. 聞き返す
相方に質問して、次のセリフのきっかけを出してもらいます。「で、どうなったんだっけ?」は、ボケ役が飛んだときにも、ツッコミ役が飛んだときにも使えます。質問の形なので、お客さんには会話の続きにしか見えません。
3. 次の場面に飛ばす
思い出せないセリフは捨てて、次の場面の入り口のセリフから話し始めます。ボケが1つ減っても、ネタは続けられます。ただし、相方と同じ「場面の区切り」を覚えていることが条件です。
4. 笑いに変える
飛んだことを、軽く言ってしまう方法です。結婚式の余興や文化祭など、温かい雰囲気の場では、会場がなごんで笑いが起きることもあります。何度も使うと準備不足に見えるので、1回までにしましょう。冗談がウケなかったときに使う一言は、「滑ったときの返し方」でも紹介しています。
5. 締めに向かう
どうしても戻れないときや、持ち時間が残り少ないときは、締めのあいさつに向かいます。「とにかく、そういうことです」とまとめ、相方が「もういいよ」で締めましょう。途中を抜かしても、締めのあいさつをきちんと言えば、ネタは形になります。
1人で演じているときは
漫談や一人コントのように1人で演じているときは、相方に助けてもらえません。「くり返す」と「次の場面に飛ばす」の2つを中心に使いましょう。客席に「ここまで、ついてきてくれてますか?」と問いかけると、自然な形で、ひと呼吸ぶんの時間が作れます。
相方がフォローするときの一言
相方が飛んだときは、フォローする側の一言で、立て直しの早さが変わります。相方の顔を見て「飛んだな」と分かったら、次のような一言で助けましょう。
| 相方の様子 | フォローの一言の例 | ねらい |
|---|---|---|
| 黙ってしまった | 「で、その店でどうしたの?」 | 次のセリフのヒントを、質問で出す |
| ボケを言い忘れた | 「まさか、〇〇なんて言わないよね」 | ボケの中身を先に言って、引き出す |
| 場面を飛ばした | そのまま乗って、次の場面を続ける | 抜けた所は、なかったことにする |
| 頭が真っ白で動けない | 「一回、深呼吸しようか」 | 間を作り、会場の空気をやわらげる |
| 違うセリフを言った | そのセリフに合わせて返す | 台本に戻すのは、次の場面からにする |
フォローで大事なのは、相方を責めるような言い方をしないことです。「セリフ忘れたでしょ」と言ってしまうと、お客さんが心配して笑えなくなります。話を進める役のツッコミ側が、立て直しを引き受けると決めておくと迷いません。
立て直しの台本の例
下は、Bのセリフが飛んだ所から、Aが質問で立て直す例です。
台本美容院の予約(飛んだ所からの立て直し・約40秒)
A髪を切りたいから、美容院に予約の電話をしたいんだよね。
Bじゃあ、僕が美容院の人をやるよ。はい、お電話ありがとうございます。
Aあの、明日の午後に、カットをお願いしたいんですけど。
B……。
(Bのセリフが飛ぶ。Aは待たずに質問をはさむ)
A明日の午後、空いてますかね?
Bあ、はい、明日の午後ですね。空いているのは、夜中の3時です。
A午後って言ってるんですよ。
(ここから台本どおりに戻る)
Bでは、担当の希望はありますか。
Aいえ、特には。
Bでは、店長の母がうかがいます。
Aお母さんが切るの?
Aは、Bが言うはずだった「空いている時間」の話を、質問の形で先に出しています。Bはそれをきっかけに、次のボケに戻れました。お客さんには、ふつうの会話にしか見えません。
飛んでも立て直せるように前もって決めておくこと
セリフが飛ぶことを、完全になくすのは難しいものです。それより、飛んでも立て直せる準備をしておくほうが、本番は安心です。
本番前に2人で決めておくこと
- 飛んだときの合図(相方の顔を見る、決まった一言を言う など)
- 場面ごとの「入り口」になるセリフ
- 立て直しを主に引き受ける人(ふつうはツッコミ役)
- どうしても戻れないときに言う、締めの一言
- 余興などで紙を持てる場合は、流れを書いたメモの置き場所
場面の入り口のセリフを決めるには、ネタを場面の流れで覚えておくことが大切です。流れ・キーワード・相手のセリフの順に覚える方法は、「ネタの覚え方」で紹介しています。
わざと黙る練習をする
通し稽古に慣れてきたら、どちらかが相方に知らせずに、1か所だけわざとセリフを言わずに黙ってみましょう。相方は、フォローの一言で立て直します。役を交代して両方を経験しておくと、本番で飛んだときにも、頭が真っ白になりにくくなります。通し稽古の進め方は「漫才の練習方法」にまとめています。
終わったあとに台本を見直す
本番でセリフが飛んでも、相方を責めたり、自分を責めたりするのはやめましょう。それより、どこで、なぜ飛んだのかを2人で確かめ、次に生かします。飛びやすい所には共通点があるので、台本の段階で直しておくと、次の本番で飛ぶ回数を減らせます。
| 飛びやすい所 | 直し方 |
|---|---|
| 似たセリフが2回出てくる所 | 2回目の言い方を変えて、区別をつける |
| 1人で長く話すセリフ | 途中に相方の相づちを入れて、2つに分ける |
| 言いにくい言葉が入ったセリフ | ふだん使う言葉に言いかえる |
| 場面の順番に理由がない所 | 話の流れで順番が決まるように並べかえる |
| 本番の直前に直した所 | 前日以降は、台本を大きく変えない |
緊張で頭が真っ白になったことが原因なら、人に見てもらう通し稽古を増やすのがいちばんの対策です。本番前の緊張をやわらげる方法は、「余興の本番で緊張しないためには?」も参考にしてください。
よくある質問
台本を見ながらやってもいいですか?
結婚式の余興や職場の出し物なら、流れを書いた小さなメモを持っていてもかまいません。お笑いライブや大会では、台本を持たずに演じるのがふつうです。持たない場合こそ、場面の入り口のセリフを2人で決めておきましょう。
飛んだことを、お客さんに謝ったほうがいいですか?
謝らなくて大丈夫です。謝ると、お客さんが「失敗した」と受け取り、そのあとのボケで笑いにくくなります。何事もなかったように続けるか、「笑いに変える」型で軽くふれる程度にしましょう。
相方が飛ぶと、自分まで頭が真っ白になります。
フォローする側が使う一言を、1つだけ決めておきましょう。「で、どうしたの?」のように、どの場面でも使える質問が1つあれば、考えずに口から出せます。あとは、相方が答えたことに合わせて返すだけです。
まとめ
- セリフが飛んだら、ひと呼吸おいて、迷ったら次の場面へ「進む」
- その場でつなぐ型は、くり返す・聞き返す・飛ばす・笑いに変える・締めに向かうの5つ
- 相方は責めずに、質問の形でヒントを出してフォローする
- 飛んだときの合図、場面の入り口、締めの一言を前もって2人で決めておく
- 似たセリフや長いセリフなど、飛びやすい所は台本の段階で直す






