あがり症でも、人を笑わせることはできます。緊張していることを先に認める一言や、前もって準備した短い一言は、その場の思いつきに頼らないので、あがり症の人ほど使いやすい笑いです。克服を目指すなら、緊張をなくそうとせず、「緊張したままでも最後まで話せた」という経験を、小さな場から少しずつ積み重ねるのが近道です。
この記事では、気持ちが楽になる考え方と、あがり症の人でも取りやすい笑いの入れ方、小さな場から慣れる練習の段階表、体の緊張をゆるめる方法を紹介します。つらさが強いときの相談先についても書いています。
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あがり症の「克服」は、緊張したままでも話せること
あがり症とは、人前に出ると強く緊張して、声が震えたり頭が真っ白になったりしやすい状態のことです。心臓がどきどきする、手に汗をかく、声が上ずる。こうした反応は、大事な場面に体が備えようとして起きるものです。
そのため、「緊張しない自分」を目標にすると、少しでも緊張したときに「やっぱりだめだ」と感じてしまいます。目標は、緊張していても、伝えたいことを最後まで話せることにしましょう。
| 苦しくなりやすい目標 | 楽になる目標 |
|---|---|
| 緊張しないで話す | 緊張しても、最後まで話す |
| 一度もつかえずに話す | つかえたら言い直して続ける |
| 全員を笑わせる | 準備した一言で、1人がくすっと笑えば十分 |
| 堂々として見せる | 伝えたいことを1つ伝える |
目標を右の列に変えるだけで、「できた」と感じられる回数が増えます。小さな「できた」が積み重なることが、人前に慣れていくいちばんの力になります。
気持ちが楽になる4つの考え方
1. 緊張は、外からは思ったほど見えない
自分では大きく感じる声や手の震えも、聞いている人からは分かりにくいことがよくあります。聞き手は、話し手の様子より、話の中身に耳を傾けています。「ばれている」と思いこまず、話の内容に気持ちを向けましょう。
2. 聞き手は、うまくいってほしいと思っている
自分が聞く側だったときを思い出してみてください。話す人が言葉につかえても、「がんばれ」と思いながら聞いていたのではないでしょうか。会場にいる人の多くは味方なので、小さな冗談にも笑ってくれやすいものです。
3. 自分ではなく、相手と内容に目を向ける
緊張しているときは、「どう見られているか」に気持ちが集中しがちです。会場の中でうなずいてくれる人を1人見つけて、その人に話しかけるつもりで話しましょう。「この話を、あの人に伝える」と考えると、自分の緊張を気にする時間が減ります。
4. 1回ごとに「できたこと」を数える
練習や本番のあとは、できなかったことより、できたことを先に書き出します。「最後まで話せた」「準備した一言を言えた」のような小さなことで十分です。反省は、そのあとに1つだけにしましょう。
あがり症の人でも取りやすい笑い
あがり症の人が苦手なのは、その場で面白いことを考える笑いです。反対に、前もって決めておける笑いなら、緊張していても使えます。会場が一度笑うと、話している自分の緊張もふっとゆるみます。
1. 緊張を認める一言で、先に笑ってもらう
緊張を隠そうとすると、かえって体に力が入ります。最初に自分から緊張を明かすと、聞き手は「分かる」と共感して、小さな笑いが起きやすくなります。
声が震えているのは、マイクのせいではなく、私のせいです。
人前が苦手なので、話す順番を全部この紙に書いてきました。今日は、紙のほうが私より落ち着いています。
緊張を一言で笑いに変える型は、「スピーチの緊張を笑いに変えるには?」で詳しく紹介しています。
2. 準備したひとことを、決めた場所で言う
その場で思いつかなくて済むように、笑いの一言はメモに書いておきます。作り方は次の3つの手順です。
- 本当にあった、小さな出来事を1つ選ぶ
- 数字か、少し大げさな言い方を1つ入れる
- 言う場所を決めて、メモに書いておく(話し始めの2〜3文目がおすすめ)
直す前:最近、ランニングを始めました。
直したあと:最近、ランニングを始めました。今のところ、いちばん長く続いているのは、ウェアを選ぶ時間です。
直す前:通勤電車で本を読んでいます。
直したあと:通勤電車で本を読んでいます。今の本は、1か月かけて5ページ目まで来ました。
自分のことを軽く笑いにする話し方は、自虐(じぎゃく)と呼ばれます。好かれる自虐と、聞き手が困る自虐の違いは「自虐ネタの例と使い方」にまとめています。
3. 笑いが起きなくても、話が続く言い方にする
あがり症の人がいちばん怖いのは、笑いが起きずにしんとすることです。準備したひとことは、笑いがなくても話が普通に続く内容にしておきます。上の例なら、笑いが起きなくても「ランニングを始めた人の話」として、そのまま次の文へ進めます。
笑いを待つのは1秒だけと決めておくと、しんとしても気になりません。笑いが起きたら、それはおまけだと考えましょう。
小さな場から少しずつ慣れる練習
人前で話すことに慣れるには、緊張の小さい場面から順に経験していくのがおすすめです。いきなり大勢の前に立つのではなく、階段を1段ずつ上るように進めます。右の列は、目標に慣れてきたら足す、笑いの練習です。
| 段階 | 場面の例 | 目標 | 笑いの練習 |
|---|---|---|---|
| 1 | 家族や友人に、今日あったことを1分話す | 1分間、止まらずに話す | 話の中に、数字を1つ入れる |
| 2 | お店や窓口で、質問を1つする | 相手の目を見て、最後まで言う | なし |
| 3 | 会議で、一言だけ発言する | 「賛成です。理由は〜」と一文言う | なし |
| 4 | 朝礼や定例会で、30秒の報告をする | メモを見ながらでも最後まで言う | 緊張を認める一言から始める |
| 5 | 3〜5人の前で、1分話す | 1人ずつ顔を見ながら話す | 準備したひとことを1つ入れる |
| 6 | 10人ほどの前で、1分のスピーチをする | 最初の一言を落ち着いて言う | 笑いを1秒待ってから次へ進む |
| 7 | 歓送迎会などで、乾杯や締めの挨拶をする | 決めた言葉を、大きめの声で言う | 準備したひとことのあとに乾杯する |
| 8 | 結婚式のスピーチや余興など、大きな場で話す | 準備したことを最後まで伝える | 笑いは1〜2か所にしぼる |
練習の進め方
- 表の中から、「少し緊張するけれど、できそう」な段階を選ぶ
- その段階の場面を、1〜2週間のうちに何回か経験する
- 毎回、話す前と話したあとの緊張を、0〜10の数字で記録する
- 話す前の緊張が、最初のころより下がってきたら次の段階へ進む
- つらすぎると感じたら、1つ前の段階に戻ってかまわない
場面:朝の定例会で、30秒の報告
話す前の緊張:8
話したあとの緊張:4
できたこと:メモを見ながら、最後まで言えた。準備したひとことも言えた
次にやること:最初の一文だけ、メモを見ずに言う
笑いの練習は、笑いが起きたかどうかではなく、「決めた一言を言えたか」で記録します。記録を続けると、「話したあとは、思っていたより緊張が下がっている」ことにも気づけます。
段階5・6で使える「1分の話」の型
話す内容が決まっていると、それだけで緊張は軽くなります。1分の話は、次の4つで組み立てると、覚えることが少なくて済みます。覚えるのは、最初のあいさつと最後の締めだけです。
- あいさつと名前(覚えておく)
- 今日の話のテーマを一言で
- 具体的な出来事を1つ
- 締めの一言(覚えておく)
おはようございます。総務の〇〇です。
少し緊張していますが、よろしくお願いします。
今日は、最近始めた「5分だけ片づけ」の話をします。
毎晩、寝る前に5分だけ、机の上を片づけることにしました。
最初の日は、机の上からペンが9本出てきました。そのうち3本は、インクが出ませんでした。
5分だけなら続けられて、朝の探し物が減りました。
皆さんも、よかったら5分だけ試してみてください。
以上です。ありがとうございました。
「ペンが9本」のような具体的な数字が1つあると、小さな笑いが生まれ、会場の空気がやわらぎます。「そのうち3本はインクが出ない」と、もう一歩だけ足すと、笑いが少し大きくなります。話す内容に困ったら、「1分間スピーチのネタ一覧」から1つ選んで、まず家族に話してみるのもいいでしょう。
体の緊張をゆるめる方法
緊張すると、呼吸が浅くなり、肩や手に力が入ります。次の方法は、席に座ったままでもできるので、出番の前に試してみてください。
- 息を長く吐く:4つ数えながら鼻から吸い、8つ数えながら口から細く吐く。これを3回くり返す
- 肩をすとんと落とす:肩を耳に近づけるように上げて3秒止め、力を抜いて一気に落とす
- 手を握って開く:5秒ほど両手をぎゅっと握り、ぱっと開く。手の震えが気になるときに
- 足の裏を感じる:立ったまま、足の裏全体に体重がかかっていることを感じる
特に大事なのは、吸うことより吐くことです。緊張すると、つい大きく吸おうとしがちですが、先に長く吐くと、次の息は自然に入ってきます。
出番の前に確かめること
- 最初に言う一言を、声に出して1回言ってみたか
- 話す順番と、準備したひとことを書いたメモを持っているか
- 長く吐く呼吸を、3回したか
- うなずいてくれそうな人を、1人見つけたか
本番で頭が真っ白になったときの一言
どれだけ準備しても、本番で言葉が出なくなることはあります。そんなときに言う一言を決めておくと、「止まっても大丈夫」と思えて、それだけで気持ちに余裕が生まれます。
| こんなとき | 使える一言 | 余裕があれば、笑いに変える一言 |
|---|---|---|
| 話し始めに声が震える | 「少し緊張していますが、どうぞよろしくお願いします」 | 「声は震えていますが、中身は震えないように話します」 |
| 次に言うことを忘れた | 「失礼しました。メモを確認します」 | 「大事なことを言おうとしたら、大事すぎて忘れました。メモを見ます」 |
| 言いまちがえた | 「失礼しました。言い直します」 | 「今のは、緊張している人の見本でした。言い直します」 |
| 頭が真っ白で続かない | 「まとめると、今日お伝えしたいのは〇〇です」 | 「頭が真っ白なので、結論だけお伝えします。〇〇です」 |
| 声がかすれた | 「水を一口いただきます」 | 「水を一口いただきます。のどだけ、準備が足りませんでした」 |
真ん中の列の一言だけでも十分です。余裕があるときに右の列を使うと、止まったこと自体が小さな笑いに変わり、会場も自分もほっとできます。メモの作り方は「スピーチのカンペの作り方」で紹介しています。
つらさが強いときは、一人で抱えこまない
この記事で紹介した練習は、日常の緊張に慣れていくためのものです。次のような状態が続くときは、練習だけでなんとかしようとしないでください。
医療機関に相談したほうがいいとき
- 人前に出る予定の何日も前から、眠れない、食べられない日が続く
- どきどきや息苦しさ、吐き気などが強く出る
- 人前に出る場面を避けるために、仕事や学校を休むようになった
- 人前に出ることを考えるだけで、つらい気持ちが続く
こうしたときは、心療内科などの医療機関に相談しましょう。職場の産業医や、学校の相談室に話してみるのも一つの方法です。つらさを人に話すことは、弱さではなく、自分を守るための大切な行動です。
よくある質問
あがり症は、性格だから変わらないのでしょうか?
人前で緊張しやすいかどうかには、人それぞれの差があります。それでも、話す場に慣れることや、準備のしかたを変えることで、楽に話せる場面を増やしていくことはできます。緊張しやすい人は、準備を丁寧にできる人でもあります。
笑いを取ろうとすると、よけいに緊張しませんか?
「面白いことを言わなければ」と考えると、緊張は強くなります。笑いの一言は1つだけにして、準備したものを決めた場所で言う、と決めておきましょう。すると、その一言が「ここまで来れば一息つける」目印になります。
原稿を全部覚えたほうが安心ですか?
全部を覚えようとすると、1か所忘れただけで頭が真っ白になりやすくなります。最初の3文と最後の一言だけを覚え、真ん中は話す順番をメモに書いておく方法がおすすめです。
人前で話す機会が、ほとんどありません。
段階1〜3のように、家族との会話やお店での質問も立派な練習です。スマホで自分が1分話す姿を録画して見返すだけでも、「人に見られながら話す」ことに少しずつ慣れていけます。
まとめ
- あがり症の克服は、緊張をゼロにすることではなく、緊張したままでも話せるようになること
- 緊張を認める一言や、準備したひとことなら、あがり症でも笑いが取れる
- 笑いの一言は、笑いが起きなくても話が続く内容にし、待つのは1秒だけ
- 小さな場から順に経験し、緊張を数字で記録しながら1段ずつ進む
- 眠れない日が続くなど、つらさが強いときは医療機関に相談する






