滑舌をよくする練習は、苦手な音が続く短い文を、速さより正確さを大事にして読むことから始めます。人を笑わせたいときも滑舌は大切で、ボケやツッコミの言葉が聞き取れないと、面白いセリフでも笑いは起きません。口の準備運動、母音読み、練習文、自分のセリフの順に進めれば、1日5分で続けられます。
この記事では、あ行〜わ行のオリジナルの練習文と、ボケとツッコミのセリフで練習する文を紹介します。スピーチや発表でかみやすい言葉の練習もあるので、本番の前にも使えます。
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聞き取れないと笑いが起きない理由
笑いは、聞いた人が「そういうことか」とわかった瞬間に起きます。言葉が聞き取れないと、その瞬間が来ません。聞き返されたり、考えこませたりした時点で、笑うタイミングも過ぎてしまいます。
ボケは、わざとおかしなことを言う役、ツッコミは、そのおかしさを指さして正す役のことです。どちらの言葉も、次のようなところで聞き取りにくくなりがちです。
| 聞き取りにくいところ | 笑いはどうなるか | 練習で気をつけること |
|---|---|---|
| オチの言葉の語尾が消える | 何がおかしいのか伝わらない | 最後の音まで言い切る |
| ツッコミが速い、こもる | ボケのどこが変だったのか届かない | ツッコミの最初の言葉を強めに言う |
| 聞き間違いのボケの音があいまい | 間違いだと気づいてもらえない | 似た音をはっきり言い分ける |
| 大事なところでかむ | 聞く人が心配して、笑う気持ちが止まる | 区切る場所を前もって決める |
オチとは、話の最後に笑いが起きるところのことです。滑舌の練習は、用意した笑いを最後まで届けるための準備だと考えましょう。
滑舌が悪く聞こえる4つの原因
滑舌とは、言葉を一つ一つはっきり発音できているかどうかのことです。滑舌が悪く聞こえるときは、主に次の4つが関係しています。
| 原因 | 起きやすいこと | この記事での練習 |
|---|---|---|
| 口の開きが小さい | 音がこもる、「あ」と「お」が似て聞こえる | 口の準備運動、母音読み |
| 舌の動きがあいまい | さ行・ら行がにごる、かむ | 行ごとの練習文 |
| 早口になっている | 語尾が消える、音が抜ける | 1音ずつ区切って読む |
| 息が足りない | 文の終わりが弱くなる | 練習文を一息で読む |
まず見直したいのは、口の開きと話す速さです。どちらも、ゆっくり大きく口を動かす練習で変わっていきます。息の使い方や声の通し方は「お笑いの発声練習」でも紹介しています。
毎日5分の練習の流れ
練習は、次の4つを順番に行います。全部で5分ほどなので、朝の身じたくの前や、お風呂の中でもできます。
毎日の滑舌練習
- 時間
- 5分
- 人数
- 1人
- 準備物
- この記事の練習文、スマホ(録音用)
- 難しさ
- ★
1分目:口の準備運動
- 口を大きく開けて、「あ・え・い・お・う」をゆっくり3回言う
- 口を閉じたまま、舌の先で歯ぐきの外側をなぞるように、右回りと左回りに3周ずつ回す
- 唇を軽く閉じて息を吐き、唇を「ぷるる」と10秒ほど震わせる
2分目:母音だけで読む
母音読みとは、文を「あいうえお」の母音だけに置きかえて読む練習です。口の形を正しく作れるようになると、元の文に戻したときに音がはっきりします。
元の文:赤い傘の兄が
母音だけ:あ・あ・い・あ・あ・お・あ・い・あ
3〜4分目:練習文を2段階で読む
その日の練習文を、まず1音ずつ区切ってゆっくり読みます(「あ・か・い・か・さ」)。次に、ふつうの速さで文として読みます。速く読めることより、最後の音まではっきり言えることを大事にしましょう。
5分目:自分が話す文を読む
最後に、本番で自分が実際に言う一文を読みます。笑いを取りたい人は、スピーチの笑いの一言や、ネタのオチ、ツッコミのセリフを選びましょう。練習文で整えた口を、本番の言葉につなげるための1分です。
1週間の割り振り
10の行を1日2行ずつ回すと、1週間で全部を練習できます。週に1回は録音して、1日目の録音と聞き比べてみましょう。
| 曜日 | 練習する行 | 意識すること |
|---|---|---|
| 月 | あ行・か行 | 口を縦に大きく開ける |
| 火 | さ行・た行 | 息の出し方と舌の先 |
| 水 | な行・は行 | こもらせない、息を切らさない |
| 木 | ま行・や行 | 唇をしっかり閉じる |
| 金 | ら行・わ行 | 舌を軽く、短くはじく |
| 土 | 苦手だった行 | 録音を聞いて選ぶ |
| 日 | 全部の行と、ボケとツッコミの文 | 通して読み、録音する |
あ行〜わ行のオリジナル練習文
どれも、その行の音が多く入るように作った文です。1つの行につき3文あり、3文目は最後に小さなオチがつく文です。最後の言葉がはっきり聞こえないとオチが伝わらないので、語尾まで言い切る練習になります。
あ行
赤い傘の兄が、雨上がりの朝、青いアイスを買いに行く。
家の奥の大きな桶に、おいしいお芋を入れておく。
兄は、居間の青い椅子で「いいアイデアを思いつく」と言い、いびきをかいた。
母音だけの音が続くと、口の形があいまいになりがちです。「あ」は縦に大きく、「い」は横に引く、と1音ごとに口の形をはっきり変えましょう。
か行
北口の喫茶店で、九個のクッキーと、濃いココアを頼んだ。
工事の看板の角を曲がると、気がきく係の人がいた。
金庫の鍵を、きっちりかけたか確かめたら、鍵は金庫の中だった。
のどの奥で作る音です。「き」と「く」が続くところでは、舌の奥を上あごにしっかり当てるつもりで読みます。
さ行
誘われて、さっそく静かな寿司屋さんで、白身の刺身を少しずつ食べた。
先生が、せっかくの洗濯物を、そっと外に干した。
先週の資料を、すみずみまでしっかり調べたら、先々週の資料だった。
「し」と「す」がこもりやすい行です。上下の歯を軽く合わせ、すき間から息を前に細く出すつもりで読みます。
た行
立ち止まって、遠くの塔の時計を、ちょっとだけ確かめた。
机の上のチラシを手に取って、ていねいにたたんだ。
月に一度、友達と、つつじの通りを通って釣りに出かけ、つつじだけ見て帰る。
舌の先を上の前歯の裏のあたりに当てて、はじくように出す音です。「つつじの通りを通って」は、つい速くなるところなので、1音ずつ確かめましょう。
な行
七つの鍋に、なすと菜の花を並べて煮る。
猫が布の上で、のんびり眠っている。
何年も、ぬるい水をあげ続けた庭の苗は、隣の家の苗だった。
鼻に響かせる音なので、こもりやすい行です。母音の口の形をはっきり作ると、聞き取りやすくなります。
は行
春の日、ひばりが広い畑の上をふわふわ飛んだ。
古い本棚の左の箱に、ほこりをかぶった笛がある。
へとへとだったので、ひとまず早めに布団に入り、ほっとして、昼過ぎに起きた。
息の音が中心の行です。息が弱いと、文の途中で音が消えてしまいます。「ふ」は、ろうそくの火を吹き消すように唇をすぼめます。
ま行
毎朝、窓の前でみかんをむいて、目を覚ます。
昔の村の門の前で、もみじを見ながら餅を食べた。
目の前の店で、ミニトマトを、まとめて三つも買った。
唇を一度しっかり閉じてから出す音です。早口になると唇が閉じきらず、音がぼやけてしまいます。
や行
夕焼けの夜道を、ゆっくりと四人で歩いた。
山の宿で柚子湯に入って、夜までゆっくり休む。
夜の屋台で、焼きそばを「やや少なめ」と頼んだら、山盛りで出てきた。
「い」の口の形から、すばやく次の音に移る行です。急ぐと「あ」「う」「お」に近く聞こえるので、最初の「い」の口を意識しましょう。
ら行
留守番のリスが、廊下でくるくる回る。
理科の連絡を、列の後ろの六人に回した。
料理の練習を「来週から」と言い続けて、六回目の来週が来た。
舌の先で上あごを軽くはじく音です。舌に力が入りすぎると「だ」に近くなり、弱すぎると音が消えます。軽く、短くはじくのがコツです。
わ行・ん
渡り廊下で、忘れ物の輪ゴムを見つけた。
わずかな時間で、わかりやすい話にまとめた。
天気の良い日曜日、新聞を三枚、玄関で順番に重ねて満足し、一枚も読まなかった。
「わ」は、唇を少し丸めてから開きます。「ん」が続くところは次の音につられて流れやすいので、1つ1つの「ん」で小さく止まるつもりで読みましょう。
ボケとツッコミのセリフで練習する文
あ行〜わ行の練習文に慣れたら、ボケとツッコミの掛け合い(2人のやり取り)で練習します。ここにあるのは、聞き間違いや、ら行の多いツッコミで笑いが起きるオリジナルのセリフです。聞き間違いのボケは、元の言葉と間違えた言葉の両方が聞き取れて、初めて笑いになります。1人で練習するときは、AとBの両方を読み、録音して言い分けられているか確かめましょう。
「ん」を最後まで言う
台本転勤と天気(約15秒)
A来月から、転勤なんだ。
B天気? 来月の天気が、もうわかるの?
A転勤! 大阪の支店に行くの!
Bそうか。大阪の天気、晴れるといいね。
A天気から離れて!
笑いが起きるのは、Bの聞き間違いと、Aの最後のツッコミです。Aが「てんきん」の最後の「ん」を飲みこむと、聞いている人にも「天気」と聞こえます。そうなると、Bは正しく聞き取ったことになり、笑いが起きません。
小さい「っ」で止まる
台本根っこと猫(約15秒)
A庭に、大きな根っこがあってさ。
B猫? かわいいね。名前は?
A根っこ! 木の根っこ! 名前はない!
Bじゃあ、つけてあげようよ。
Aつけなくていい!
笑いが起きるのは、Bが猫だと思って名前を聞くところと、Aの「名前はない!」です。小さい「っ」は、ほんの一瞬、音を止めるしるしです。「ね・っ・こ」と止まらずに言うと、聞いている人にも「ねこ」と聞こえてしまいます。「っ」のところで、息を軽く止めるつもりで言いましょう。
「じゆう」と「じゅう」を言い分ける
台本自由と十(約15秒)
Aお菓子、自由に取っていいよ。
B十? じゃあ、十個もらうね。
A自由! 好きなだけ、っていう意味!
B好きなだけなら、十個でもいいでしょ。
A……それは、そうだけど!
笑いが起きるのは、Bの「十個もらうね」と、言い返せなくなったAの最後のセリフです。「じゆう」は「じ・ゆ・う」の3つ、「じゅう」は「じゅ・う」の2つの音で、「じ」と「ゆ」がくっつくと「十」に聞こえます。や行の練習文で、「い」の口から次の音に移る練習をしておくと、言い分けやすくなります。
ら行のツッコミをはっきり言う
台本運動会のリレー(約15秒)
A運動会のリレー、最後まで歩いたよ。
Bなんで歩くの。
A「廊下は走らない」っていうルールだから。
Bここは校庭! リレーで、そのルールはいらない!
この掛け合いで笑いが起きるのは、Bのツッコミです。ツッコミには、ボケのどこがおかしいのかを、聞いている人に伝える役目もあります。「リレー」「ルール」「いらない」とら行が続くので、舌を軽くはじいて言いましょう。ほかのツッコミの言い回しも「ツッコミのワード一覧」から選んで、同じように声に出して練習できます。
スピーチや発表でかみやすい言葉の練習
本番でよく使う言葉も、前もって練習しておきます。結婚式のスピーチや会議の発表で使う言葉は、区切り方を決めておくと安心です。笑いの一言の直前でかむと、聞く人の気持ちが笑いから離れてしまいます。
| 言葉 | つまずきやすいところ | 練習のしかた |
|---|---|---|
| 新郎新婦(しんろうしんぷ) | 「ん」のすぐあとに「ろ」が来る | 「しんろう・しんぷ」と2つに分ける |
| 僭越(せんえつ) | 「ん」と「え」がつながり、「せねつ」になりやすい | 「せん・えつ」と区切ってからつなげる |
| ご列席(ごれっせき) | ら行と小さい「っ」が続く | 「ご・れっ・せき」と3つに分ける |
| 出張所(しゅっちょうじょ) | 「しゅ」「ちょ」「じょ」が続く | 「しゅっ・ちょう・じょ」と3つに分ける |
| 生産性(せいさんせい) | 「せ」と「さ」が交互に来る | 母音読み「えいあんえい」で口を作る |
| 取締役(とりしまりやく) | 「り」が2回ある | 「とり・しまり・やく」と分ける |
「させていただきます」のような長い言い回しも、かみやすい言葉の1つです。「いたします」に言いかえると、短くなって言いやすくなります。スピーチの原稿を読み上げる時間は、「スピーチ時間の計算」で目安を確かめられます。
録音を聞くときに確かめること
- 文の最後の音まで聞こえるか
- 「し」と「す」、「ら」と「だ」が言い分けられているか
- 「ん」や小さい「っ」が抜けていないか
- オチやツッコミの言葉が、1回で聞き取れるか
- 句読点のところで、息を吸えているか
よくある質問
有名な練習文も使ったほうがいいですか?
「外郎売(ういろううり)」は、歌舞伎のせりふが元になった長い練習文です。演劇やアナウンスの発声練習によく使われています。北原白秋の詩「五十音」も、行ごとに音を練習できる文として知られています。どちらも長く、昔の言葉が多いので、この記事の短い文に慣れてから挑戦すると続けやすくなります。
漫才のテンポを上げたいときも、ゆっくり練習するのですか?
はい。テンポのよさは、早口のことではありません。セリフはふつうの速さで言い、セリフとセリフのあいだのむだな間(ま)を詰めると、テンポよく聞こえます。間の取り方は「漫才の間とテンポの取り方」で紹介しています。
人前に出ると、緊張して早口になってしまいます。
緊張すると、息が浅くなって早口になりやすくなります。句読点のところで一度息を吸うと決めておくと、話す速さが落ち着きます。緊張しながら笑いを取る方法は「あがり症でも人を笑わせられる?」で紹介しています。
練習を続けても、話しにくさが変わりません。
話しにくさが長く続いて生活に困っている、急に話しにくくなった、という場合は、練習だけで何とかしようとしないでください。耳鼻咽喉科などの医療機関に相談すると、原因に合った方法を教えてもらえます。
まとめ
- 笑いは聞き取れて初めて起きるので、オチやツッコミの言葉ほど最後の音まで言い切る
- 毎日5分を、口の準備運動、母音読み、練習文、自分のセリフの順で行う
- あ行〜わ行の練習文は1日2行ずつ回し、3文目のオチまではっきり言う
- ボケとツッコミのセリフで、「ん」「っ」や似た音の言い分けを練習する
- かみやすい言葉は区切り方を決め、話しにくさが続くときは医療機関に相談する






