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上條晴夫「お笑い教師同盟(仮)の秘密」
  (『健康教室』(東山書房)2003年5月号掲載)


 人事院でディベート研修をした。さいたま新都心駅近くの合同庁舎、20何階かにある講師控え室でのこと。「お笑い教師同盟(仮)って何ですか」と聞かれて少し困った。
 わたしの名刺を見た人事院研修担当の方の質問だった。小学校教師を辞めてから約10年。名刺の裏側には「全国教室ディベート連盟常任理事」や「△□大学非常勤講師」のようなそれらしい肩書きにまじって、「お笑い教師同盟(仮)代表」と書いてあった。
 「ま、まずい~っ」と思った。
 目の前にすわった人事院の方はあまりお笑いなど好きそうではなかった。かといって「『学級崩壊』現象の分析から子どもたちが教師に『オモシロ度』を強く求めるようになったこと。そのためお笑いタレントなどが駆使するコミュニケーション技術を学ぶ必要が発生したこと。『お笑いに学ぶ教育技術』などのワークショップを開催すると、けっこう先生たちが集まること」を一つずつ説明していくには少し手間がかかりそうだった。
 笑ってごまかそうとしたが、熱心に聞いてくれるので、学級崩壊からお笑いコミュニケーションまでのつながりをくわしく説明することになった。偶然かもしれないが、午前中の研修を聴講していた別の研修担当者からは「講義のテンション高いですね」と言われた。午後は少し押さえ気味に講義をした。
 教育界には「お笑い」を軽視する考えがある。お笑い以前の「たのしい」にさえ拒否感があった。たとえば1983年に創刊された教育雑誌に『たのしい授業』(仮説社)がある。わざわざ雑誌タイトルに「たのしい」とつくくらいである。従来の授業が「たのしい」を目指してはいなかったことがわかる。
 しかし最近はこの傾向に少しずつ変化が出てきた。フジテレビ出版から出してもらった『さんま大先生に学ぶ子どもは笑わせるに限る』はともかく、手探りでこわごわ出した『お笑いに学ぶ教育技術』(学事出版)などが、出版後、約半年足らずで再版をきめた。
 この『お笑いに学ぶ教育技術』の執筆者を中心に結成したのが「お笑い教師同盟(仮)」である。小学校教師15名、中学校教師5名、学生が1名という布陣。通常はインターネットのメーリングリストで交流している。
 会員数が少ないのは、これまで会員を募集してこなかったから。今いる会員はわたしが参加した研究集会などで出会ったお笑い好きの教師に一人ずつ声をかけて集めた(Webmaster注…現在は規約を整備し、本研究会の目的に賛同される方は自由に入会できるようになりました)。
 最近このメーリングリストに新メンバーが加わった。奈良の小学校の先生で土作彰さんという。『ミニネタで愉快な学級をつくろうよ』(学陽書房)などの著書もある教育熱心な先生である。北海道・旭川の教育研究集会で知り合った。もちろんお笑い好きだ。
 わたしが昨年のM(マンザイ)1グランプリで準優勝したハリガネロックのファンだという書き込みをすると、すぐに次のような書き込み(=蘊蓄話)を披露してくれた。

 ハリガネロックは、「比較ネタ(2つのものを比較し、そのギャップの大きさで笑わせる)」がいけてますよね。ツッコミの大上君が「ボクの可愛い奥さんは編み物教室いってるねん。そんな奥さんがセーター編んでくれるって言ったら、もう、編んでえ~やで。」というと、ボケの松口君が「ボクのアネサンなんか彫り物教室いってんねん。昇り竜彫ってあげましょうか?といわれたら、もう、彫ってえ~やで」という具合に、可愛い奥さんとヤクザ姉さんというギャップの大きな二者を比較したネタです。
 この構造をつかむと、子どもたちとのトークも冴えます。例えば、「先生、今度ディズニーランドいくねん。」といってきたら、「それがどうした。俺なんか健康ランドいくっちゅうねん。」というふうに受けます。これは、ディズニーランド(豪華旅行)と健康ランド(しょぼい旅行)の比較に大きなギャップが生じるからです。

 これまでお笑い好きの学校の先生というと、たいていは落語が中心だった。あるいは、いきなり「笑いの哲学的分類」のような固い話を始めた。
ところが土作さんは漫才中心に話をしてくれる。ときには実演(「ノリツッコミ」を教えてくれた)までしてくれる。漫才好きのわたしにはそこがうれしい。
 やっぱり関西人はすごい!
 教育環境がちがう!
 わたしは仕事先の人に「関西方面の仕事は条件交渉なしでやります」といつも言っている。別に東北地方や九州に行くときに、条件交渉をしているわけではないが、関西に行けるとなると、もうそれだけでうれしい。
 関西で仕事をする一番の楽しみは関西限定のテレビがを見られることである。もちろん時間があれば「なんばグランド花月」に入り浸る。しかし時間がなくても、テレビをつけるだけで、わたしの好きな関西芸人が普通にワイドショーなどに出ていて、「オチのある話」をしてくれている。
 「もう最高だ!」
 7月には奈良に行く。楽しみだ。

(この文章の転載にあたっては、執筆者・編集者の許諾を得ております)

Published: 9月 5th, 2010 at 15:11
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