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「自著を語る 『お笑いに学ぶ教育技術-教室をなごませるアイデア集-』」
上條晴夫

  (『日刊・小学校教師用ニュースマガジン』第765号(2002年1月14日発行)掲載)


 全国の小学校に学級崩壊の嵐がまだまだ続いている。
 日本経済新聞(2001・12・15)の教育欄に国立政策研究所の小松郁夫さんの寄稿文が載っていた。小松さんは文部科学省の委託を受けて学級崩壊の現状や小学校教員の意識変化について調査を続けている。相変わらず3割ぐらいの小学校で学級崩壊(「学級がうまく機能しない状態」)が起こっているという。

 この学級崩壊について様々なことが言われている。
 小松氏の調査で面白いのは、変化の激しい社会からの要請に、仕事を「教科指導に特化」したいと考える教師が増えている点である。また「地域と連携できない」「議論できない」などのコミュニケーション不全が学級崩壊が発生しやすくするという。要するに「かたく閉じた」教師に崩壊が起きやすい。

 誤解を恐れずに言えば、いま社会が求めているのは、これまでの「教え上手」の教師ではなく「ノセ上手」の教師である。子どもたちが否応なく生きていかなければならないのは、組織の上下関係や価値観の違いを超えて、活発な「コミュニケーション」によって、新しい知識・価値を創り出していかなければならない厳しい世界だからである。

 本書『お笑いに学ぶ教育技術』はTVのバラエティー番組などでよく使われるゲームを使ったコミュニケーション遊びを二十八ヶ紹介する。もちろん教室で実際に試してみて、教室の空気をなごませるゲーム(バラエティーゲーム)ばかりを厳選した。このゲームを実施すると、子どもたちの「仲がよくなる」という効果がある。

 また、このバラエティーゲームを子どもたちと一緒に楽しむと、教師は「ノセ上手」になる。「ノセ上手」の技術を分析すると、「見守る技術」と「言葉かけの技術」の二つである。子どもたちと一緒にバラエティーゲームを楽しむと、子どもを「見守る技術」が自然に身につく。「言葉かけの技術」も少しずつうまくなる。

 代表的なゲームに、次の「お笑いあるあるネタ合戦」がある。
 1)なるほど、あるあると言いたくなるような一言ネタを考えさせる。
 2)一対一の勝ち抜き戦方式で発表させる。
 3)発表の際に、「あるあるネタを言ってみて」と全員で掛け声をかける。
 4)どっちが「あるある」と思ったか、多数決で勝敗を決める。
 5)教師は進行役になる。時には勝ち抜き戦に参加する。

 ネタとしては「テストで自信がない時、まわりの鉛筆の音がやけに大きく聞こえる」「机の裏に自分の名前を残そうとして、机を彫りたがる奴がいる」「誰かが牛乳を飲んでいると、つい笑わせて吐き出させたくなる」などがある。
 教師はそのネタに対して「それはないでしょう」「あるある」と囃し立て盛り上げたり、「テストで同じ答えの番号が続くと不安になったりするよね」と話題を横に広げたりする。つまり子どものようすを見ながら言葉かけをしていくことになる。

 この実践を追試したある新人教師が以下の報告をしてくれた。
 「昨日、国語に時間に、中学2年生を対象に、『お笑いあるある勝ち抜きネタ合戦』をやってみました。
 成果:教室が爆笑に包まれました。
 教室をあたためる……どころか、一時間いっぱい笑い声が絶えなくなりました。
 生徒から出てきたネタがありきたりでも、教師の方で話を横に広げたり、大袈裟に『おまえだけだろう!』とリアクションしてやると、本当に盛り上がりました。
 その際、子どもを見る余裕が普段の授業よりもあった気がします。
 授業は、教師の意図するところに引っぱろうとするからでしょうか。子どもを丸ごと受け止めると言うことがなかなかできていないんだなぁ…と反省です」

 教えることに意識が行きすぎると子どもが見えなくなる。
 確かに「教え下手」より「教え上手」に越したことはないが、「教え上手」を追究するあまり「子どもを見守る」余裕がなくなっては困る。なぜなら、いまの教育に一番必要なのは「コミュニケーション(対話)」だからである。
  
  授業の中で余裕しゃくしゃく、子どもの様子がよく見えて、「ツッコミ」や「フォロー」のような言葉かけが自由自在なら文句はない。しかしそういうのが苦手だという不器用教師には、ぜひ本書の「バラエティーゲーム」を試してほしい。
 このゲームで教室は間違いなくあたたかくなる。

Published: 9月 5th, 2010 at 15:05
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