中村健一「フォローの技術~有田和正氏のフォロー技術を分析する~」

『授業づくりネットワーク』(学事出版)2009年1月号特集
「お笑いの世界に学ぶ4つの教育技術」
フォローの技術
~有田和正氏のフォロー技術を分析する~

中村 ケニチ(山口県・小学校)
酒税における高額納税者です。共著に『子どもが納得する個別対応・フォローの技術』(学事出版)


■夏の日の思い出

 私には、孫の代まで語り継ぎたい自慢話がある。06年夏に行われた授業づくりネットワークin大阪では、野口芳宏氏のカバン持ちをさせていただいた。翌07年夏の授業づくりネットワークin東京では、有田和正氏のカバン持ちをさせていただいた。共に忘れられない夏の思い出である。
 それは、野口氏、有田氏は、私にとって神様のような存在であったからだ。
 では、どんな神様か?「フリ」の神様である。
 お笑いは、「フリ」「オチ」「フォロー」から成る。そして、授業も「フリ」「オチ」「フォロー」から成る。

「フリ」=教師が出す発問・指示など。
「オチ」=教師の「フリ」を受け、子どもがする発言、作業など。
「フォロー」=子どもがした発言や作業への対応。

 野口氏は、『○か×か書きなさい』という指示に代表されるイメージだ。洗練された発問、端的な指示、つまり「フリ」で子どもたちをグイグイ引っ張る。
 有田氏は、「一寸法師」に代表される面白いネタのイメージだ。子どもたちが喜ぶ面白教材(「フリ」)で楽しい授業をする。
 しかし、お二方のカバン持ちをして分かったことがある。お二人とも、「フォロー」の神様でもあったのだ。カバン持ちの私に対しても、対応(フォロー)が実に優しい。
 たとえば、有田氏。お弁当を差し出した私に対して、有田氏は、こうおっしゃった。
「ありがとう。一緒に食べよう」
 最高に嬉しかったのは、言うまでもない。 この後、お二人の著作を「フォロー」という観点から読み直してみた。やはり、お二人とも「フォロー」の神様であった。
 野口芳宏氏の「フォロー」の技術については、本誌 07年3月号掲載の拙稿で分析させていただいた。(もちろん十分な分析ではない。いつか、またチャレンジしたい)
 そこで、今回は、有田和正氏の「フォロー」の技術を分析してみたい。

■フォローの基本はほめること

 明石家さんま氏の技術を分析した。(本誌07年6月号掲載の拙稿を参考)対象とした番組は、「踊る!さんま御殿!!」。
 大きな成果は、明石家さんま氏の一番の仕事が分かったことだ。それは、笑うこと。
 さんま氏は、番組の中で本当によく笑っていた。お客さんや他のゲストが笑っていない時でも、机をたたいて大笑いである。
 笑うことは、ゲスト陣にとって、ほめられることと同じである。
 何を言ってもさんま氏が笑ってくれる、ほめてくれる。こういう状態であれば、誰しも話しやすいはず。事実、「踊る!さんま御殿!!」では、ゲスト陣が実にいきいきとおしゃべりしていた。
 この分析から、私は、教師の一番の仕事もほめることだと考えるようになった。
 つまり、教師の「フリ」(発問や指示など)に一生懸命応えた子(「オチ」担当)は、しっかりほめるという「フォロー」をするべきだということである。

■有田氏の「フォロー」もほめるが基本

 有田氏には、『指導力アップ術⑩学級づくりと教師のパフォーマンス術』(明治図書)という著作がある。有田氏は、この本の中で次のように述べている。
「パフォーマンスというのは、相手への思いやりであると書いた。相手の反応を見て、『すばやく対応すること』こそパフォーマンスの本質である。『対応の技術』といってもよい。」
 先にも述べたように、「フォロー」は、子どもたちへの「対応」の技術である。有田氏の「パフォーマンス」と「フォロー」は、ほぼ同じものだと考えられる。
 では、有田氏がどんな「フォロー(対応)」をしているのか?その実際を前掲書から引用してみる。やや長いが、有田氏の「フォロー」のすごさを伝えたいので引用する。 声の小さい13人のクラスへの飛び込み授業。授業の最初にあいさつした時の有田氏の「フォロー」(対応)である。

 間違っても、「このクラスは、声が小さいね。大きな声を出して!」などといってはいけない。必ず、ほめることである。
 一三人のクラスであいさつしたとき、
「今、一四人くらいに聞こえましたよ。今度は二〇人くらいの声を出してみましょう」
というと、五〇人くらいの声になる。
 ユーモアたっぷりに、「うん、今のあいさつはすごかった。五一人くらいの声に聞こえましたよ」といって拍手する。
 すると、「先生、もう一度やろう!」という。「いいですね。今度は一〇〇人かな?」というと、ものすごい声を出す。
 参観の先生方も、子どもたちも大笑いになる。

 この実践は、私には衝撃であった。声が小さい時でさえ、ほめているからだ。13人のクラスに対して、「今、一四人くらいに聞こえました」は、明らかに肯定的な評価である。つまり、ほめている。
 有田氏も「必ず、ほめる」という「フォロー」を基本にしているのがよく分かる。

■有田氏は、なぜほめるのか?

 では、有田氏は、なぜほめるのか?
 前掲書で有田氏は、次のように述べる。

 「君は、ほんとに明るいね!」と暗示をかけ続けると、「嘘から出たまこと」ともいわれるように、いつの間にか明るくなる。
 わたしどもは、社会的嘘、つまり「暗示」をかけることによって子どもを教育することがかなりある。
 子どもは、ほめられた方向に育つ。だから、育てたい方向に向かって暗示をかける。暗示は、ほめことばが多い。

 有田氏の説明に納得である。
 私は数年前、掃除をあまりしない高学年のクラスを担当したことがある。
 それでも、掃除を見回っては、がんばっている子を見つけ、ほめまくった。そして、クラス全体にも『○年○組は、ほんっと掃除上手なクラスだねえ。先生、幸せ』などと言い続けた。
 そうすると、本当に子どもたちは、その気になるから不思議なものである。
 掃除に真面目に取り組む子がどんどん増えた。そして、多くの先生に認められる本当に掃除上手なクラスになってしまった。 こういう経験があるから、有田氏の意見には、全く異論がない。ほめまくれば、「子どもは、ほめられた方向に育つ」のだ。

■ほめる「フォロー」は「安心」を生む

 ただ、私としては、もう1点、ほめることの効用を付け加えたい。それは、「安心感」である。
 私は、今の子どもたちは「不安」を強く感じていると考えている。妙に遠慮しながらつき合う子どもたちを見て、子ども同士の距離が遠くなっているのを感じるからだ。それと同時に子どもと教師の距離も同様に開いてしまった。
 今の教室は、「安心感」のない「不安」な場所と言えるだろう。
 先の実践は、飛び込み授業のものである。子どもたちは、最初、有田氏との距離を遠く感じたのではないだろうか?それが「不安」につながり、小さな声のあいさつになったのではないだろうか?
 そこに、有田氏の「今、一四人くらいに聞こえましたよ」というほめる「フォロー」である。「この先生は、必ずほめてくれる」と思えば、子どもたちは「安心」できるはずだ。「安心」すれば、子どもたちは十分に力を発揮できる。それが、どんどん大きな声につながっているように思う。
 「先生、もう一度やろう!」など、有田氏に「安心」しきっているからできる提案である。「こんなこと言って怒られないかな?」なんて「不安」があると、絶対に言えない。

■ユーモアのある「フォロー」を

 「有田氏=ユーモア」は、当たり前なので、最後にユーモアについてザッと述べる。
 先の有田氏の「フォロー」には、子どもたちを「安心」させるユーモアがある。
 最初は、声が小さかったことからも、子どもたちの表情は暗かったと推測される。それが、「五一人」「拍手」「一〇〇人」というユーモアに子どもたちが、笑顔になる。「大笑い」さえする。だから、「安心」して、力を十分に発揮し、大きな声が出せたのだろう。
 「フォロー」には、ユーモアも大切だと考えている。ユーモアは、子どもたちに「安心」を与える有効なアイテムだからだ。
 有田氏のようなユーモアのある「フォロー」は、これからの教室にますます必要になってくるはずだと考えている。

(この文章の掲載に当たっては、執筆者および『授業づくりネットワーク』編集部の許可を得ています)

Published: 9月 27th, 2010 at 23:58
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