福岡亮治「キャラクターの技術」

『授業づくりネットワーク』(学事出版)2009年1月号特集
「お笑いの世界に学ぶ4つの教育技術」
キャラクターの技術
福岡 亮治(京都府)


 私は,教師になる前にお笑いの世界にいた。吉本新喜劇の劇団員であった。
 「お客さんとのやりとりが大切なお笑いの世界」と「子ども達とのコミュニケーションが大切な教育の世界」は,共通するものが多い。実際に,お笑いの世界で学んだことが教師となった今もたくさん役立っている。
 教師になってからお笑いのコンクールに教師の友人と教員漫才コンビを組んで出場した。そして,プロ参加の大会にもかかわらず優勝することが出来た。お笑いのプロとしてやっていたころには,なかなか日の目を浴びなかったのだが今回は総合的に評価されたようである。芸人であった時代よりも,教師となってからの「お笑い」が評価されるようになった・・・。教師をしているうちにお笑いの力が身についた???今度は逆に、教師の世界で学んだことがお笑いの世界でも役に立っている。やはり,教育とお笑いには密接な関係があるのではないだろうか?

プロはお客さんの反応をみている

 とある漫才コンビのネタを見た。
「とても面白い」
さらに,違う機会にこの漫才コンビのネタを見たときに大きな驚きがあった。見たネタは,前回と同様のネタ。しかし,ツッコミの仕方が全然違うのである。このコンビは,お客さんの反応や笑いによりツッコミの度合いを調整しているのである。大きな笑いや反応があったときは,大きくツッコミを入れ,大きな笑いにつなげる。そして,その大きな笑いをきっかけに,お客さんを掌握し,大爆笑の舞台を作り上げていく。また,同じボケでもお客さんの反応や笑いが少ないときは,まるでボケて無いかのように軽くだけツッコミを入れスルーし,いつかくる大きな笑いまでじっと待っているのである。特に,漫才の重要な「つかみ」の部分では,失敗しないように「いかにもボケますよ」というボケをせず,自然な流れの中でお客さんが笑うようなネタを構成しているのである。
これは,教育の世界でも通用する。

面白いではなく楽しい先生というキャラ

 現在,博物館で勤務している私は,市内のたくさんのクラスの子どもに理科の授業をしている。担当するクラスそれぞれに雰囲気があり,同じことをしていても反応が全然違う。そんな中で,楽しい授業を目指している私は,授業の中に笑いを組み込むことを常に考えている。私が目指しているのは,「いかにもボケますよ」という笑いではなく,自然な流れの中で子ども達が笑うようなしかけ。そのひとつは,挨拶の仕方,めちゃくちゃ大きな声で挨拶をするのである。
「おはようございます!!」
子ども達からは,笑いがあふれる。なんのリスクもなく自然と笑いが生まれる。もちろん笑いが起こらなくても大丈夫。そのままスルーして授業に入ればよいのである。同様に自然な範囲内で低めのダンディーな声で挨拶をするという方法もある。これは,何度も実践しているのだが,反応のよいクラスで
「おはようございます」
というと,子ども達からも
「おはようございます」
と低めのダンディーな声での挨拶が返ってくる。ここですでに子ども達からは笑顔が出るのだが,さらに
「君たちええ声やなあ」
と言えば,大きな笑いにつながるのである。
そうなれば後は簡単な作業である。子ども達に定着した「声のダンディーな先生というキャラクターを演じ続ければよいのである」といっても,実験の説明や知識の解説の時にボケを入れるのは御法度。あくまでも芸人ではなく教師であることを前提に要所要所でそのキャラクターを出せばよい。例えば,実験の解説や知識の説明が終わった後で
「わかりましたか?」
と低い声で言えばよいのである。子ども達からは,笑いが起きる。反応のよいクラスであれば,
「わかりました」
と低い声が返ってくることがありこれがまた大きな笑いにつながるのである。
 こういった子ども達との関わりの中で生まれる自然なキャラ設定は,子ども達にとっても愛着のわくキャラクターとなるのである。次に教師自身が設定するキャラクターについて説明する。

子どもとの出会いは自然なキャラクターで

 教師自身が設定するキャラクターも自然でなければならない。「いかにも面白いでしょ」というキャラクターを設定することは,失敗したときに大きなリスクを背負ってしまう。特に,子どもたちとの出会いの場面で失敗すれば,担任を持つ一年間に影響しかねない事態が起こってしまう。そこで「自然な流れの中で子どもたちが楽しくなるようなキャラクターの設定」を行うことが大切である。そんな取組の一つが『シマシマ先生』というものである。取組のやり方はとても簡単。身につける物をシマシマのものにするだけである。特に,不自然な事をしていないので,子どもたちが不自然に感じるというリスクは全くない。それでいて,効果のあるキャラクターの設定ができるのである。以下に具体的な実践方法とその効果を説明する。
 新年度の子ども達との出会いで子どもたちは,「新しい先生ってどんな人だろう」と教師から一歩離れて観察してくる。「先生!先生!」と話かけてくる子どもは話せば話すほど「親近感」を持ってくれる。しかし,一歩離れたままの子どもとの距離はこちらから話しかけないと縮まらない。しかも全員と話をするには,たくさんの時間を要してしまう。だから「話かける」ではなく,「話したい」という環境づくりが大切になってくるのである。そこでシマシマ先生という取り組みを私は考えた。私は,子どもたちと出会った最初の自己紹介の時「先生は,シマシマが大好きです。いつも体のどこかにシマシマがあります。探してみてください。」と言う。出会いの日は,靴下,シャツ,上着,ハンカチ,靴など身につけるものすべてをシマシマづくしで教壇に立つ。そうするだけで,子どもには「面白そうな先生だな」「話しかけやすそうな先生だ」と印象付け,この時点である程度の距離感を排除することが出来る。そうすることで毎朝,子ども達は「先生のどこにシマシマがあるのだろう」と私に注目するようにするのである。そして,「先生!シマシマ見つけたよ」とたくさんの子ども達が話かけにくるようになる。授業の前に子ども達と話すことで,子ども達との信頼関係も深まる。そして,会話を重ねることで「親近感」を持ち,安心して授業を受ける環境が出来上がるのである。
こうすることで自然と子どもたちに浸透することができる先生のキャラクター設定を作り上げることができる。この取組は,「シマシマ」だけにこだわらず,水玉模様のものを身につければ「水玉先生」,赤いものばかりを身につければ「赤色先生」になるなど,その先生の趣味に合わせてキャラクターを設定できるといった応用も効くのである。

自然なキャラクター応用編

 今は,お笑いが大人気。テレビをつければいつもお笑い芸人が出演している。お笑い芸人にもいろいろなキャラクターがあり,たくさんのキャラクターの芸人さんが,ひっきりなしに現れている。特に,濃いキャラクターの芸人さんは,あっという間に人気者となる。しかし,すぐに飽きられ消えていくという悲しい事実もある。これは,教育の世界でも同じ。一年間という長いスパンで考えるとインパクトのある濃いキャラクター設定ではなく自然なキャラクター設定が必要となるのである。

子ども達が大好きなのは弱点探し

 それが「○○が嫌いな先生」というキャラクター。
子ども達は,先生の弱点を見つけることが大好きである。これだけで子どもとの会話が弾む。そこで私は,シンプルなキャラクターを考えた。そのキャラクターとは,「○○が嫌いな(苦手な)先生」子ども達との会話の中で弱点があることを伝えるだけでよいのである。例えば給食の時間に『○○くん,最後までしっかり食べなさい。先生だって苦手なものがあるけど頑張って食べているんやで』これだけでキャラ設定はバッチリである。こうすることで子ども達から次のような質問がくる。「先生!嫌いなものあるの?」『ほとんど大丈夫やけど,3つ苦手なものがあるなあ』この「3つというのがポイントである。弱点を見つけるために子ども達は,毎日の給食の時間に「ヒントを教えて」と話しかけてくるようになる。疑わしいメニューが出た時は,班の友達と私の食べる表情をみて分析し始める子どももいる。こうするだけで子どもとのコミュニケーションはバッチリ。しかし,次第に飽きてくる。そこで,この「3つ」という言葉が生きてくるのである。徐々に正解を出すことで意欲を継続させることができるのである。このように謎の多いキャラクターをつくり,子ども達がその謎を紐解いていくという取組も「話しかけやすい環境作り」となり,子ども達とのコミュニケーションの手段の一つとなるのである。

(この文章の掲載に当たっては、執筆者および『授業づくりネットワーク』編集部の許可を得ています)

Published: 9月 27th, 2010 at 23:51
Categories: