上條 晴夫「ユーモア教育への挑戦-お笑い教師同盟の現在-」

『授業づくりネットワーク』(学事出版)2009年1月号特集
「お笑いの世界に学ぶ4つの教育技術」
ユーモア教育への挑戦
-お笑い教師同盟の現在-

上條 晴夫(お笑い教師同盟 代表)


(1)「お笑い教師同盟」のはじまり

 設立は2001年4月1日。
 最初は「お笑い教師同盟(仮)」と名乗っていた。
 このプロジェクトがこんなに長く続くとは、きっとだれも想像していなかっただろう。
 現在、44都道府県に206名の会員がいる。
 アメリカ、カナダ、モロッコにも会員がいる。
 合い言葉は「教室に笑いを!」
 もちろん従来も教室の中にはたくさんの笑いがあった。
 教室の中は、教師と子ども、子どもたち相互の温かい笑いがあふれていた。それはごくフツーの光景だった。
 つまり「お笑い教師同盟」の「教室に笑いを!」という合い言葉は教室に笑いがなくなってきた-あるいは少なくなってきた-ことを時代的な背景として作られている。
 その直接の引き金は、「学級崩壊」である。
 「お笑い教師同盟」の母胎になったNPO法人「授業づくりネットワーク」が「学級崩壊」の問題を初めて取り上げたのが1997年11月。本誌で緊急連載がはじまった。
 この「学級崩壊」への対応策の一つとして、1999年12月にフジテレビ系「あっぱれさんま大先生」のストップモーション検討会が行われた。ここでは当代の人気お笑いタレント明石家さんまのお笑いが教育の観点から分析された。
 ここに新しいユーモア教育の歴史がはじまった。

(2)ユーモア教育の地平を斬り拓く!

 以下、21世紀の「ユーモア教育」の地平をコツコツと斬り拓いてきた「お笑い教育同盟」の活動のようすを彼らの著作活動を中心にしてみていくことにする。
 もちろん、そのユーモア教育の前史には、有田和正著『「ユーモア教育」で子どもを変えよう』(1993)によるユーモア教育の提唱があったことは見落とせない。有田氏は「ネアカ修行」と称して、ユーモアのある教室スピーチを多数開発しただけでなく、子どもにもたくさんのユーモアのある作文を書かせたり、「笑いの練習」という独特のトレーニング法を提案した。そして、それを講演などで広めていった。
 以下、「お笑い教師同盟」の活動の歴史である。

1 お笑い教師の役目はフォローにある

 従来も教室空間にはたくさんの「笑い」好きの先生たちがいて、たくさんの笑いを作り出していた。しかしその基本は、教師が面白い話をすること、そして、子どもたちにも面白い話をさせることであった。たとえば、関西圏の学校において、そうした「面白話バトル」は日常的な風景であった。
 「お笑い教師同盟」のルーツである上條晴夫編『さんま大先生に学ぶ子どもは笑わせるに限る』(フジテレビ出版・2000)は、21世紀の始まる年に、そうした従来のパラダイムとは異なる「ユーモア教育」の見方を提示した。
 それは、教師が積極的に「ボケ」を演じて、教室の中に、楽しい笑いを作り出していくというやり方ではなく、教室の中にごく普通にある「うっかり」に「フォロー」の言葉で関わって教室内に温かい空気を作り出すというものだった。
 笑いは教師が作るのではなく、子どもたちが作る。
 子どもたちが作った笑いを教師が見守っていく。
 たとえば、さんまさんがMCをする日本テレビ系の「踊る!さんま御殿!!」という多人数トーク番組がある。ここでさんまさんが行っていることは、番組に登場したゲストたちからできるだけたくさんの笑いを引き出すことである。
 全体の組み立ては、毎週12人の芸能人を「さんま御殿」に招いて、テーマに沿った身の上話をさんまさんの指名した順序で一人ずつ話してもらうというものである。
 お笑いの公式「フリ・オチ・フォロー」のうち、さんまさんが担当するのは「フリ」と「フォロー」。いろんなゲストが登場し、自分が面白いと思った話を披露する。その話にさんまさんが絡んで笑いを大きくする。確かに笑いが足りないときは「ツッコミ」も入れて、自分で笑いを作り出す。
 しかし、基本は、あくまで「フリ&フォロー」。
 この「さんま御殿」は同じ局の「恋のから騒ぎ」の芸能人版というコンセプトである。しかし、そのルーツをたどれば、子どもたちと教室でやりとりした「あっぱれ」に辿りつく。
 「お笑い教師同盟」の出発点は、このさんまさんの「フリ&フォロー」である。これは従来のお笑い好き教師による落語ベースの「教室に面白い話を!」とは一線を画する。

2 バラエティーゲームでお笑い体験をする

 テレビのバラエティー番組では、ネタもあるけれど、笑いを生みやすいゲームを通して、お茶の間に笑いのあるコミュニケーションのようすを見せるという手法がとられる。
 たとえば、フジテレビ系の「はねるのトびら」というバラエティー番組には、「短縮鉄道の夜」という言葉あそびのコーナーがある。バックに流れるBGMのリズムに乗り、「アキバ⇒秋葉原」「はねとび⇒はねるのトびら」などという短縮言葉を、リズムに合わせ、元に戻し、言い当てていく。
 こうしたゲームを通じ番組では視聴者に「様々な笑い」を展開して見せる。たとえば、先日、このコーナーにアーティストで俳優もこなす「ゆず」が出た。このゲームを通して、笑ったり、笑わせたりしながら、ゆずと「はねとび」のメンバーがだんだん打ち解けていくようすが放送されていた。
 こうしたゲーム形式のコミュニケーション活動を教室場面に応用したのが上條晴夫編著『お笑いに学ぶ教育技術-教室をなごませるアイデア集』(学事出版・2001)である。
 まえがきには、次のように書かれている。
 「バラエティーゲームという本書に紹介したゲームを子どもたちと一緒にするだけでよい。ゲームの設定が自然に子どもたちの笑いを引き出す。教師はゲームの中で出てきた子どもの笑いに共感したり、軽いツッコミを入れるだけでよい。それだけで教室の空気があたたかくなる。ちょっと工夫すると教室が爆笑の渦に巻き込まれることもある」
 お笑いテーストを中心にしているが、ゲームを使って参加者の心をひらき、笑いを起こさせて、安心感につなげていくという方法論は、レクリーダーと呼ばれる人たちがフツーに行ってきた活動と重なる。いわゆる「ファシリテーション」技術を学ぶのに、このバラエティーゲームは有用である。

3 ちょっとしたネタ&コツで笑わせる

 お笑いにネタはつきものである。子ども、子どもたちとの教室でのやりとりに、「くだらないこと」が混ざっていると子どもたちも安心し、教室で楽しく過ごすことができる。
 たとえば小学校時代、井上先生という妹の担任教師がいた。井上先生は自己紹介でよく「名前はシンゾウ。だって、胃の上に心臓があるでしょ」と言っていた。もちろん放言である。しかし真面目な妹は長くその自己紹介を信じていた。
 こうした教室を楽しくするちょっとしたネタを「お笑い教師同盟」は収集した。上條晴夫編著『教室がなごむ お笑いのネタ&コツ101』(学事出版・2003)である。
 従来の教室での笑いは教師の「面白おかしい話」に限定をして考えられることが多かった。しかし本書ではテレビのバラエティー番組でやるようなちょっとした遊び、子どもたちとのやりとりなども意識して集めるということを行った。
 たとえば、『貴様、エスパーだな!』では教師が問題を出す前に子どもが答えを言ってしまったような場合に、真顔で、「ははん、わかった」とポンと手を打ち、答えを言ってしまった子どもを指さし『貴様、エスパーだな!』とやる。
 ばかばかしいと言えばばかばかしいが、こうしたちょっとした子どもとのやりとりの積み重ねが、安心感を育て、教師と子ども、子どもたち相互の信頼感を育てることになる。

4「笑いのしかけ」論で理論武装する

 1980年代半ば、授業研究の世界で「学びのしかけ」という考え方が発見される。教師が指示や発問をし、子どもに直接勉強を促すのではなく、たとえば簡単なゲームのような教材づくりによって子どもたちの学びを促そうとする。
 有名な例ではラブレター作文がある。「たとえ~ても」「なぜ~か」「たぶん~ろう」「どうか~して下さい」「まるで~ような」の五つの呼応の副詞を使ってラブレターを書く。
 上記の学びのしかけで文章が自然に生まれ出る。
 つまり「学びを促すシステム」を工夫することで子どもたちの学びを活性化する。これと同様の発想で書かれた本が、上條晴夫著『お笑いの世界に学ぶ教師の話術』(たんぽぽ出版・2005)である。どうやったら<笑い>が生まれるか。TVのバラエティーの中からそのしかけを探り出す。
 たとえばフジテレビ系のテレビ番組「笑っていいとも!増刊号」(日曜日)ではタモリを中心に数名のタレントが一人のタレントの発言を巡って、集団トークを展開する。
 このコーナーではだれか一人がいじられ役になり、みながよって集って、同じ方向のツッコミをする。いわゆる「かぶせる」型の笑いをとる。この時の関根勤氏の動きである。
 関根氏は、そのツッコミのようすをじっと観察し、そのツッコミの勢いが切れる直前に、それまでとは違った角度からツッコミを入れる。するとその話の勢いが盛り返す。
 こういう「笑いのしかけ」をTVバラエティー等を中心に探し出し、教室場面に応用する。上の関根氏の事例であれば、教室が同傾向の発言で盛り上がった時、教師はあえて角度を変えた発言をする。すると教室の空気は再び盛り上がる。

5 つかみ/キャラ/フォロー

 「笑いのしかけ」論である『お笑いの世界に学ぶ教師の話術』で、ある種の理論武装が完了する。本書で新しいユーモア教育の可能性に目を開かれたという人は少なくない。
 この後、「お笑い教師同盟」の先生方を中心にいくつかの各論的なお笑い系の教育書が出版される。『お笑いの世界に学ぶ教師の話術』の章目次にもなっている「ツカミの技術」「キャラの技術」「フォローの技術」の三つが核である。
 まず上條晴夫編著『教室の空気を変える!授業導入100のアイデア』(たんぽぽ出版・2006)は授業成立がむずかしくなった「授業導入」に「ツカミの技術」を適応して教室の空気を変えることをもくろんだ意欲的な一冊である。
 必ずしも笑いを取ることを目標にしていないが、教室の空気を変えるという発想は、従来の教育界にはなかった。
 ユーモア教育的アプローチによる新しい発想である。
 次に上條晴夫編著『教師のためのキャラクタートーク術』(たんぽぽ出版・2007)は教師-子ども関係をキャラクターを媒介することで「共犯関係」に作り替えようとする。
 たとえば「奈良の大仏」のかぶりものをかぶって登場する教師は、素顔で奈良の大仏を説明する教師よりも子どもたちとダイレクトにつながったコミュニケーションができる。
 最後に上條晴夫・中村健一著『子どもが納得する個別対応・フォローの技術』(学事出版・2007)は、私語や立ち歩きで授業運営が難しい教室における教師の指導言のうち、とくに「フォロー」要素に着目して書かれ本である。
 従来の教師のキッパリした指導言に対し、その指導内容をやわらかく伝えるフォローの言葉を事例研究的に取り上げている。このフォローもまたユーモア教育的な発想である。

(3)「お笑い教師同盟」の可能性!

 2007年の丸一年「公明新聞」教育欄で「授業に笑いを!お笑い教師同盟の挑戦」というリレー連載があった。執筆者は、上條晴夫、中村健一、田中光夫、山田洋一、乙部啓二、福岡亮治、土作彰、佐々木潤、赤坂真二の九名である。もちろんすべてお笑い教師同盟に集う「猛者」たちである。
 この連載は、最初、半年の予定でスタートした。ところが、半年過ぎてみると、大変に好評ということで、さらに半年間、延長することになった。そのすべてのコラムを「お笑い教師同盟」のホームページ「発言集」に見ることができる。
 この「挑戦」で「お笑い教師同盟」が行ったことは決して小さくない。とくに授業に焦点を当てたこと。授業に焦点を当てた教育実践の数々を広く世間に紹介したことである。
 たとえば、漢字学習で「助ける」「悪い」「私」「悲しい」「美しい」「顔」などの読み方の勉強をする。このままでは面白くないので「脱線読み」をする。フラッシュカードには次のように書く。「助ける」「助けて!」「キャー!」「悪い」「誰?」「私?」「違う!」「悲しい」「ビタミンC」「美しい」「先生の」「顔!」。漢字学習に笑いが起こる(赤坂真二実践)
 「お笑い教師同盟」の歩みは、確実に前進している。まだまだやれることはたくさんある。たとえば先の「脱線読み」。 音読指導や読解指導、文法指導でも脱線してみる。
 きっと面白い教材づくりになるはずである。

(この文章の掲載に当たっては、執筆者および『授業づくりネットワーク』編集部の許可を得ています)

Published: 9月 27th, 2010 at 23:44
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