二宮 孝「わたしのお笑い教師道 アイデアの生みの親はユーモア」

『授業づくりネットワーク』(学事出版)1999年12月号特集「教師のための「お笑い」入門セミナー」

わたしのお笑い教師道 アイデアの生みの親はユーモア
二宮 孝(東京)


1 シモネタ・ディスカウントはルール違反

 対象と場を考えた上でのユーモアということを考えていきたい。男子校の先生はシモネタを頻発することで安直に和ませたり、ご機嫌うかがいをすることは可能だと思う。「こらおまえ達、自分の胸に手を当ててよーく揉んでみろ…」などは男子校で使える失敗の少ない定型句だが、誉めたものではない。私も女子校の教師でありながら失敗したこともある。プールの授業中に質問され、とても良い質問だったので「良いところに毛が生えたねぇ」と言ってしまった。相手は水着姿の女子高生である。すぐに訂正して「今のところはカットカットよろしく」と謝ったものだが、笑ってくれたからといってヨロシクない。
 もう一つ品位とは別に、「人をディスカウントするタイプの冗談」も他人を不愉快にするし、お人柄が丸見えな感じで頂けない。例えば「二宮先生、校長先生がお呼びです」「ハーイどうも…何だろう?アレかな?」などと言うと「そうよきっとバレたのよ」という類のディスカウントジョークを言って笑う人がいる。それはそれでいいのだが、このタイプのギャグ以外のスタイルを持たない輩がいる。しかも先生や年輩者に多いのである。あなたの職場にも必ずいるはずである。たまなら構わないが、いつもではお育ちが知れる。

2 「ミエ」や「定型句」でハズしたら一大事

 執筆を引き受けてはみたものの、そもそもこのタイトルにまじめに執筆することそのものがお笑い的な感じがする。まじめ一徹、堅苦しい人、つまらない奴…が、文章を読むと「お笑い」に「入門」できるというのが面白い発想だと思う。無理矢理入門しても笑いを駆使できる術者には育たないだろう。だから本当のところ、他の方の文章が楽しみでならない。
 歌舞伎のように「キメ」のポーズや「定型句」があって、これを身につけると必ず70%以上のお笑いが取れると思っているのなら、ガッカリさせるもとになる企画だと考えられる。笑いは長年培った個性である。それに対して該当する教師本人に対して「皆が持っているイメージ」と「今までに築き上げた関係」の土台の上にフレーズやパフォーマンスがぴったり重なり合って「笑い」を産むことになる。
 笑いは雰囲気を和らげるだけでなく、瞬時に一体感や仲間意識の高揚をはかるカンフル剤のような役目を果たす。この点アメリカ人は実にうまい。一般的にはドイツ人が下手だと言われている。そう言えば「地獄」という散文に「ドイツ人の喜劇役者とイタリア人の警察官とイギリス人のシェフとメキシコ人の国境警備隊と日本人の作った道路標識の国…」とかいうのがあった。アメリカの大統領には、演説用のユーモアを担当する専門秘書がいるという話も聞いたことがある。
 以前、レーガン元大統領が、76歳の誕生パーティのとき「私はご婦人と同じで39歳から歳を取っていない。だから今日は、私の39歳の38回目の誕生日だ…」と演説したのを覚えている。短い挨拶でウィットを効かすから意味があるのであろう。この点、日本の政治家の中でイタダケる人は少ない。
 「Importance of Living」(リン・ユータン著)によると、日本の女性のユーモア度も評価が低い。理由は、誰と話しても答えがさほど変わらず、当たり障りの無いことしか言わないと言うことだ。つまり「自分」を見せてくれない。そういうことである。

3 ロイヤリティを高めるユーモア

 そろそろ本題に入るとしよう。まず図をみてもらいたい。

 図の縦軸は「品のあるなし」を表している。そして横軸は自分の深さ・その冗談のバックグラウンドを端的に表している。それぞれの領域を1~4までに分けた。4の領域は、いわゆるギャグと考えてもらいたい。その場限りの人気取りとして有効だが、安いテレビ番組のようなものである。面白かったけれど、あってもなくてもいいようなものである。1の領域はプロのエンタティナー領域と呼べるかもしれない。教師は常に瞬間的に応える訓練を要求される。それができる度合いが高くなることがある意味でベテランということでもある。瞬時に品の良いウィットを効かせるのはタダ者の仕業ではない。3は私的な部分と考えられる。通じている間柄でOKの領域である。ただし、同じ品のない話でも話す人によって不愉快だったり、軽妙だったり、リアルだったり、シリアスだったりとなるところは注目すべきである。
 最後に残る2の領域を大切にしたいと考えている。ここの領域が日頃からの積み重ねであり、年輪であり、つまりその人らしさである。そしてこの領域のユーモアが、生徒のロイヤリティ〔愛校心・尊敬〕を育てるものだと信じている。頷けない方も、4と対比して考えると幾分納得できるのではないだろうか。
 思いつきのシモネタ的ギャグは、仲間意識を獲得するレベルで役立つが、師弟間にはそぐわない。教師としては邪道である。2の領域を駆使するとあの時先生はこんなユーモアを交えながら相談に乗ってくれた。あの言葉は、笑って聞いていたが、今でも信条にするほどの深遠な真理が潜んでいた。一生忘れない。…というような領域である。これを過去の日本では真面目一徹で薫陶的・説教的に迫るのが教師らしいとされていた。
 提案として、また求められているコンテンポラリーな教師のスタイルとして2の領域を見直していただきたいと思う。

4 ショックアブソーバー効果

 「真面目」は、実は無難なだけで決してそれ以上のものではない。管理職にとっては便利でも、生徒にとっては有難くない。そこで、「真のユーモア」についてもう少しお付き合いをして頂きたいと思う。「Humor」は、語源的に潤いとか潤滑油などの意味合いがある。個人的には、「お笑い」と「ユーモア」は分けて考えている。笑わなくても「ユーモア」だと考えている。人間関係におけるクッション材としてだけではなく、個人の中のクッション材でもある。もし、「自己を見つめる」という作業を突き詰めていくとすると、そこには見たくなかった「嫌な自分」をも見ることになる。その時、真面目なだけだと「自己嫌悪」に陥ってしまう。「あーもう俺はだめだ」「生まれてこないほうが良かったんだ…」となってしまう。同じガッカリ状態でもせめて「人間なんて美しいばかりじゃない」とか「誰だってそんなものさ」というようにありのままの自分をソフトランディングさせてくれるのが、実は「ユーモア」の力なのだと思う。「デヘヘ」の部分である。これがないと真実を受け止める能力さえ低くなってしまうことになりかねない。
 普段からアンテナを高く伸ばして生活していることが大切である。通勤途中の電車で、ウォークマンを聴くなど勿体無い。こんなにおかしい場所を逃してはいけない。かと言ってジロジロ見てはいけない。どういう人が周囲にいるのかをまず把握することからはじめる。危ない人やイッちゃっている人、猛烈な臭気などを感じた場合は即座に車輌を変える。第一段階としては当然のことである。あとは路線ごとの共通点や氏素性、あるいはその人が今悩んでいることなどを、少ない情報から割り出す作業に取り掛かる。途中で勃発的に起きた妙な出来事があればすぐにそちらに乗り換える。そうこうする中で「女性は『オバサン』になってから突然太る訳ではない」という事実を割り出すことになるかもしれない。
 こんな楽しい訓練が、面白さを見逃さない視野の広い人や心理描写に長けた人を作ることにつながる。ひとむかし前までは、人ごみをまっすぐ歩くと対向者が避けてくれたものだが、最近は頻繁にぶつかりそうになる。周囲への視察力や気配り・目配りが確実に低下しているからである。

5 別な職種との交わりが教師の幅を広げる

 家族と生徒と職員室だけという付き合いの幅の狭さがつまらない人間を作る。この手の人は親戚付き合いも疎かにしているはずである。だからつまらなくなるのである。というのも「直接的な利害」を大切に暮らしていると入るものも出るものも少なくなるのである。収入も知識も表情も表現も反応も慶弔費もである。
 そのために教員研修以外の研修会等に参加してみるのは、意義深い。そして、日本人にはなかなか難しいことだが、知り合い以外の人と懇談してみるのが良いだろう。
 この間、あるシンポジウムのパネリストとして、50分ほど講演をした。その時、話が「アイディア」の方向へとシフトした。その場で話したことだが「アイディアは、知識が父でユーモアが母である。兄は記憶で弟がパクリであり、姉がセンスで妹がシェイプアップなのだ」と言った。
 このことからすると、これらの6要素は密接な関係にあり、欠けている人は6要素のレベルにもばらつきがあるはずである。

6 自分のコンフォートゾーンを突き破って成長してみよう

 人は自分の安心していられるコンフォートゾーンを持っている。当然のことながらその範囲の大きさは人によって違う。この範囲内ならば「慣れていて、解っていて、能力的にも対応できて反応も予測できる」というエリアである。ただし、この範囲を突き破らないと人に成長はない。
 そのためには行動して実体験してみる以外に方法はない。本を読もうというのでは話にならない。コンフォートゾーンを出られないからである。一歩出ればそれなりの成長痛を伴うかもしれないが、確実に成長する。視野を広げ明るくほくそえむ余裕ができる。
 私をご存じない方にはこの文章では笑えなかったであろう。「笑い」とはそういうものである。

(この文章の転載にあたっては、執筆者・編集者の許諾を得ております)

Published: 9月 25th, 2010 at 21:02
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