池田 修「『笑点』の「大喜利」からのスタート」

『授業づくりネットワーク』(学事出版)2004年6月号特集「授業はおもしろくなくっちゃ!~エンターテインメントに学ぶ授業づくり~」

『笑点』の「大喜利」からのスタート
池田 修(東京・八王子市立楢原中学校)

1.【小さな笑いで教室を満たす】

 職員室に先生を探しにやってきた生徒が聞く。
「池田先生、花田先生知ってますか?」
『はい。知っていますよ』
「どこですか?」
『いやあ、花田先生は知っているけど、それは知らないなぁ』
「おいおい」

     *

進路を決定するあたりの学活での会話。
『君はどうして高校に行くんだ?』
「自分の可能性を広げたいから」
『なるほど。立派な答えだ』
「先生はどうしていったのですか?」
『私か。私は、電車で行ったなあ』
「ハイハイ」

 私が日常作っている笑いはこのようなものである。ここでは、どうやって作れる
ようになったのかの三点について、すなわち

・プロセス
・仕込みとトレーニング方法
・教室に笑いを生み出す時の注意

を書いてみたい。

2.【大喜利が原点】

 私の笑いの基本は言葉いじりにある。これは、言葉の定義をずらすことと言ってもいい。
 これらは、日本テレビ系列『笑点』の大喜利コーナーのやりとりに近いものがあると考えている。司会の三遊亭円楽さん(私が熱中してみていたときは南伸介さん)がお題を出して、メンバーが面白おかしく答える。いい答えには座布団一枚配るという、あの番組である。
 お題を出した瞬間に桂歌丸さんが答える。

「謎掛けです。雪と掛けてなんと解く」
『はい』
「お、歌さん早いね」
『雪と掛けて』
「はい、雪と掛けて」
『雪と掛けて、人の欲望と解きます』
「ほう、雪と掛けて人の欲望と解く。そのこころは?」
『積もりつもって、やがて道を外します』
「お~い、座布団一枚!」

 私は(うまいなあ)と思うだけであったが、(あんな風に笑いがすぐに作り出せればいいなぁ)と教師になってからは作る側のことを思うようになった。
 生徒が何か面白い発言をしたら、間髪入れず鋭い応答をしたい。生徒がかちんとくる発言をしたら値千金の一言でぐうの音も出ないように言い返したい。しかも、笑いが取れる言い方で。しかし、簡単にはいかなかった。
 試行錯誤の上で見つけた現在の答えは以下の通りである。

3.【教室に笑顔を育てる基本】

 基本は教室での教師の笑顔である。
 笑点でも、南伸介さんも円楽さんも笑顔で司会をしている。教室では、教師がこの役になる。笑顔でネタを振り、笑顔でリアクションを返したい。そうすることで子どもたちは安心して教師のネタ振りに反応し、リアクションで笑う。
 笑顔が、子どもたちへの
(安心して答えていいんだよ)
(笑ってもいいんだよ)
というメッセージになるからである。

4.【学級の仕込みと教師のトレーニング】

 プロが行うテレビのバラエティー番組であっても、本番前には新人芸人やアシスタントディレクターが「前説」という会場の「暖め」を行う。本番で笑いが生まれやすくなるように小さな笑いをばらまいたり、笑い方のルールを示すのだ。「いわんや教室をや」である。
 私の教室での笑い方のルールは、
「教師の話に突っ込みを入れろ」
である。
 前掲の『いやあ、花田先生は知っているけど、それは知らないなぁ』「おいおい」の「おいおい」の部分が突っ込みである。この部分があることで、教室にコミュニケーションが生まれるのである。いわゆる「親父ギャグ」でシラーッとした空気が流れたとき、これがあるだけで随分雰囲気が違う。
 初めの頃は指示をしてもなかなかできないので、練習をさせる。
『はい! 「おいおい!」』
 子どもたちは何事が起こったのかと思う一方で喜ぶ。
 思わぬメリットも発生する。授業での子どもたちの集中力が上がるのだ。突っ込みを入れるには話をきちんと聞かなければならないからだ。

 教師のトレーニングには、これも前掲の「謎掛け」が向いている。
 これは、お題について、一見全く関係ないものに共通項を見いだす遊びである。一人でできるし、どこでもできる。つまらないときの職員会議などはもってこいの場である(笑)。
 はじめは「雪と掛けて、砂糖と解く。その心は、どちらも白いでしょう」のレベルから始めればよい。だんだん慣れて上手くなってくる。こうして言葉の定義や多面性を発見していくのである。これを使って切り返すのである。

5.【お笑い七箇条】

 萩本欽一氏の『「笑」ほど素敵な商売はない』には次の記述がある。

「笑い」の基本形は、相手の失敗、間違いを見つけて、それを突くことから始ま
ります。つまり、「ツッコミ」というのは、悪い表現をすれば、「いびり」であ
り、「虐め」なんです。これがないと「笑い」が生まれてこないんですね。

 このように笑いは、少し間違えると、「いじめ」や「からかい」の原因ともなる。ここは注意を要する。
 私はクラスでお笑いを扱うとき、次の「お笑い七箇条」を徹底させる。去年の中学一年の学級通信から引用する。

     *

(1) 安易に下ネタに走るなかれ

 これはプロでも特に新人の時には厳しく言われることである。
 なぜまずいのかというと、簡単に笑いが取れるのである。頭を使って笑いを創り出さなくても相手が笑ってしまうのである。これは笑いを鍛えることにはならない。
 また、この笑いは品性のない笑いである。品性のない笑いを扱っていると、
人間そのもの品性が下がってしまう。
 笑いは、相手が考えていること、予測していることと違うことを行うとき、その落差でうまれると言われている。(詳しくは、ベルグソンの『笑いの構造』に書いてある)
 下ネタを話すと、ほとんどの場合、相手の考えていることと違うことを言ったことになる。だから笑いが生まれることは生まれるのだが、まずい笑いなので、これを禁じるのである。

(2) ディスカウントギャグは、己をディスカウントすべし

 ディスカウントギャグという言葉は私の作った言葉である。
 ディスカウントとは、「値切る、割り引く」という意味だ。笑いを取るときに、相手を馬鹿にするやり方を取る場合がある。これは、自分と相手の落差を作って笑わせるのだが、これも品性がない。
 ただ、「自分が馬鹿で~す」と自分の位置を下げて落差を付ける方法は、オッケーである。これは所ジョージさんがよく使う方法である。また、本物の馬鹿には使えない方法である。

(3) 駄洒落、見立てギャグは十発続けるべし

「トイレにいっといれ」などというのが駄洒落である。いわゆる寒いギャグである。
 見立てギャグとは、あるものを他の物として表現するギャグである。たとえば、箒を抱えて「ギター!」と言うのもそうである。
 これらは一発ギャグ系列である。一発勝負なのでタイミングが非常に大事である。当たれば大きな笑いを取れるが外れたときが大変だ。
 その時は、数で勝負するのだ。十個出すというのは、かなり厳しいだろう。だが、そこに挑戦するときに創造的な自分を創り出すことができるのである。また、十個も出せば、一つぐらいヒットするのもあるだろう。

(4) オチは三番目に設定すべし

 笑いの基礎用語には、「ネタ振り」「突っ込み」「ボケ」「オチ」「フォロー」「リアクション」などがある。「オチ」とは、笑いが一番盛り上がるところである。
『さんまのからくりテレビ』を見ていると、問題が出されたときに、はじめに関根さんが答え、次に渡辺さんが答え、三番目に浅田さんや西村さんが答えるという構造が多い。どうもオチが三番目に来るのが心地良いようなのだ。

(5)道具ギャグの鮮度は、一日のみと心得るべし

 掲示物やかぶり物、名札、物を使うギャグは、一発ギャグである。一回勝負である。鮮度を大事にしたい。受けなかったときに、または受けたときに更に新しい物を用意するとなると、何か物を買ってきてということになりやすい。これは、安直である。
 笑いは自分の頭と体で創り出す物であり、お金で買ってくる物ではない。注意したい。

(6) 突っ込み、リアクションは的確な場所に、適切なタイミングで入れるべし

 コミュニケーションは、一人だけで行うものではない。相手と一緒に楽しむものだ。授業であっても、先生の質問(ネタ振り?)に、君たちは答える(ボケ?)だろう。
 先生の説明(ネタ振り?)に対して、「分かりません」と質問するのは、立派な突っ込みである。この突っ込みがキチンとされるときに、私の授業はいい授業になる。これはギリシアの哲学者のソクラテスの教育方法(産婆術)と同じようなものである。
 状況とタイミングを考えた内容のある突っ込みを期待したい。

(7) 面白いときは大声で笑うべし

 笑いを提供してくれたことを感謝しつつ、思い切り笑おう(笑)。

 仕込みとトレーニングとルールが行われているとき、教師に自然なお笑いトークが発生するのではないだろうか。

(この文章の転載にあたっては、執筆者・編集者の許諾を得ております)

Published: 9月 25th, 2010 at 20:11
Categories: