第4章

藤野賢治「学校教育における「笑い」の導入」
(2003年度 早稲田大学卒業論文)


第四章 「笑いの制作」を目的とした総合学習プログラム
-小学校高学年を対象-

第一節 活動内容とねらいと評価方法

 第三章で生徒に笑わせることを取り入れた授業を作っていきたいという私の考えを述べたので、第四章では具体的な活動プログラムを作成したものを見てもらいたい。まず、全体の活動内容とねらいと評価方法を示しておく。
(1)活動内容
 本プログラムの内容は総合的学習の時間の中で生徒がコントや漫才の手法を学び、笑いの制作に挑戦するとともに、笑いの手法を用いて自分が関心のある情報を他人に伝える表現活動である。笑いの手法とは、第二章第二節で取り上げた「ストーリー破壊型」と「ストーリー作成型」の笑いに分けて、偶然を意図的に産み出すゲームを取り入れた方法である。
(2)ねらい
 次に上記の活動のねらいである。本プログラムの総括目標は、「人を笑わせる技術を身につけることで、笑いを人間関係や物事のとらえ方へと発展できる子どもを育てる」ことである。そして、「笑いの制作」を学習のテーマとしたねらいは第二章第三節で述べたことである。まず1つ目は、笑わせる技術を得ることによって、伝えたい情報を笑いを媒体として伝えることができる表現能力を育成すること。その表現能力が周りの人に評価されることによって生徒の心の余裕を生み出すことにもつながる。2つ目は、既存のもしくは新しい情報から笑いを作り出す課程で、客体としての情報を主体的な知識としてとらえなおすことによって、総合的な知識への気づきを芽生えさせる。3つ目は、第一章第二節でも取りあげた「笑う」ことが人間関係においてよい影響を及ぼしていることを学習し、日常の中に笑いの技術をおとしてコミュニケーション技術として自覚させることがねらいだ。以上をまとめると総合的学習の時間での本プログラムのねらいは次のようになる。
 
 ねらい1:伝えたいことを笑いを媒体として伝えることができる表現力の
 ねらい2:笑いを生み出すことが既存の知識を基に主体的な視点を交えて知識を重層化していることへの気づき
 ねらい3:笑いがコミュニケーションを円滑にする技術であることに対する自覚

表現活動は方法がさまざまなので、だからこそ教師側は活動のねらいをしっかり持っていなければならない。また重要なこととして、表現活動を学校の方針にあった授業の原理原則に当てはめることも意識しなければならない。
 そこで、平成11年5月に文部省(現文科省)が発表した「小学校学習指導要領(総則編)」では、総合的な学習の時間のねらいについて次のように記されている。
<1>自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
<2>学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度をそだて、自己の生き方を考えることが出来るようにすること。

<1>と本プログラムの関係について述べると、「笑いの制作」における自主性とは、自分の考えた笑いがどのようにすれば人に伝わるかを考えることにあたる。笑いの表現手段は無数にあるので、それに合った伝え方を考えていく必要がある。また先のねらいに挙げた「笑いを産み出すことが既存の知識を基に主体的な視点を交えて知識を重層化していることの気づき」はものごとの主体的な判断へと結びつく。<2>と本プログラムの関係は、笑いを伝えることによって、人間関係の円滑化や心のゆとりなどの生きていく上での知恵としての気づきが生き方へと結びつく。
 補足として、対象とした小学校高学年を選んだのは、生徒の学習状態を想定して考えたことによる。生徒の学習状態は、ピアジェの思考の発達段階1に裏づけされる。小学校低学年は、発達段階でいう「前操作期」にあたり、特徴として(a)言語と象徴的思考の発達が著しい(b)自己中心的な発話や思考が優勢である、などが現れる時期である。よって、この時期には自己主張をする生徒は多くても、自分の考えを人にわかるように伝えようとする欲求がまだ小さいので「笑いの制作」は成り立たないだろう。小学校3、4年生は前操作期から具体的操作期に移る頃で、具体的操作期の特徴では(c)脱中心的思考が可能となる(d)自己中心的傾向が弱くなり社会的行動が生じる、などがある。この時期の生徒は他人に自分の考えを伝えようという欲求は出てくるもののそれを表現する能力がまだ乏しい。小学校高学年は年齢的にはまだ具体的操作期にあたるが形式的操作期に近い時期でもある。形式的操作期には(e)具体的事物・事象を超えた抽象的な思考が可能となる(f)抽象的概念の分析、統合、評価が可能となる、などの特徴が現れてくるので、周りの友達に何かを伝えたい、という欲求と能力が一致してくる。これが中学生になると、抽象的な思考が発達し、個々人の価値観の相違が大きくなってくるので「笑いの制作」のような表現活動に取り組む意欲の差もでてくるのではないかと考える。「笑いの制作」とは、面白いと思うことをみんなで共有することによってまとまった面白さを観客に向けて伝える作業である。その作業がしやすい学習状態の段階にあるのが小学校高学年であるといえる。第三章で紹介したお笑いゲームを取り入れた授業も小学校での実践であることも理由として大きい。
(3)評価方法
 最後に「笑いの制作」という表現活動を、人を笑わせることを専門としていない人、つまり教師がどのように生徒を評価していくかである。個々の生徒が笑いについて自由に表現する活動なので教師の基準によって順位をつけるような評価はできない。なので、活動の過程においては生徒の相互評価にゆだね、教師は生徒の活動に対する振り返りの中でレポートや作文などを提出させて評価する方法がよいだろう。

第二節 年間活動計画と単元学習指導案

 第二節では総合学習における「笑いの制作」の具体的な年間学習プログラムと、「ストーリー破壊型」の笑いと「ストーリー作成型」の笑いの作成法を取り入れた単元学習指導案を提示する。
1.年間活動計画
 本プログラムは年間で前期・後期に分け、2種類の活動を構想している。「笑いの制作」を主軸とした「笑いを表現する」活動と「笑いを通して知識を深める」活動とに分けた学習展開である。前期(4月~9月)では主に笑わせる技術を身につけるための活動が中心になっている。後期(10月~3月)では、笑いを通した情報伝達の技術を身につけるための活動を展開する。授業は学級単位で実施する。そのために学級で制作した笑いの作品の発表機会を文化祭やクラスマッチの中に取り入れる。
 ここからは巻末の<表1>を見ながら生徒の活動内容と各単元のねらいを確認する。
(1)前期活動 「笑いを表現する」
笑いの関心を高める、広げる
前期活動の「笑いを表現する」活動の導入の部分である。まず、自分たちがなぜ笑っているのかをお笑いパフォーマンス鑑賞や自分の好きなお笑いを紹介することによって気づかせる。そうすることで生徒は、「笑い」というテーマの中で自分はどんな笑いに関心があって、他人はどんな笑いに関心があるのかを知ることが出来る。
 導入時のねらいは、生徒の笑いに対する関心をさらに広げることである。
 笑わせる技術を学ぶ
前期活動の一番難しい部分である。方法としてやりやすいのは、お笑い活動をしている人に一緒にコントをやってもらったり、ネタの作り方を直接生徒に講義してもらったりすることである。そのような機会を設けるのが環境的に困難である場合は、第二章第二節で紹介した方法で、教師自身が笑いの作成法の練習を授業の中で行う。まず、ビデオなどで漫才やコントを見て、その笑いが「ストーリー破壊型」と「ストーリー作成型」に分けることができることを教える。そして人を笑わせる技術が、偶然を意図的に産み出すことであることを明示した上で各ゲームを行う。その際気をつけなくてはいけないのは、学習が「お遊び」になってしまわないようにする。そのためにも、単元ごとの目標を明確に提示することや、単元の終了時には振り返りの時間を充実させることに気を配る。 
 活動のねらいは、自分にも人は笑わせることはできるという自覚を持たせることである。
 班分けとワークシートを使ってのネタ作り、発表
ここからクラス内で班分けを行う。40人クラスの場合、発表の時間を考えて5人ずつくらいの班がよい。教師はコントや漫才の設定の用意してあるワークシートを各班に配る。設定を与えたほうが班で話しやすくなるからだ。2分程度のコントか漫才を作り、みんなの前で発表する。発表後には、他の班に対して評価シートを書いて、集めた評価シートを見ながら班内で良かった点、悪かった点を確認する。ここで教師は、生徒が笑いを制作するに当たって、人を中傷するような言葉や差別表現が使われていないように言語指導もしっかりと行う。
 活動のねらいは、人前で演じることの恥じらいを和らげることと、他人の評価を反映させられるようになることである。
 自由にお笑い制作活動
題材とするテーマを、夏休み期間を使って取材に行って、それをもとにコントか漫才を班ごとに考える。自分たちの足で取材した体験をコントや漫才でどのように表現できるかを見る後期活動への布石でもある。
 活動のねらいは、伝えたい内容を笑いという手段で伝える表現力を育成することである。
 クラス対抗による発表、前期のまとめ
前期の締めくくりでもある。文化祭などの場で、クラス代表のネタを披露し、一番面白かったクラスを決める。クラス代表を決めるために、クラス内で班ごとの発表会を行う。クラス発表の後は、他の班に対しての評価シートに加えて、自分の班員1人1人へのコメントシートも書く。そして、自分の気づいたことを作文にして提出させる。
 前期締めくくり時のねらいは、「笑いを表現する」活動を通して班員の普段見えなかった一面を見つけること、そして普段見せられなかった自分の一面を他人に評価してもらうことである。
(2)後期活動 「笑いを通して知識を深める」
 情報バラエティー番組づくり 
ここから後期活動に入っていく。前期で「笑いを表現する」活動が終わり、後期からは「笑いを通して知識を深める」活動に切り替わる。活動内容は、情報バラエティー番組を作る活動である。教室をスタジオと見立てて発表を行う。始めに、情報バラエティー番組とはどのようなものであるか、生徒に実際に見てもらい発表をしてもらう。その上で番組が笑いを媒体として視聴者に情報を伝えていることに気づかせる。さらに、番組をクイズ式やコント式のように類型化してみる。
 後期活動のねらいは、伝えたいという動機をもった既存の知識を、お笑いを媒体とする新しい視点から知識へと掘り下げられるようになることである。
 新しい班分けとテーマ決め
一年を通してより多くの生徒の新しい一面に気づかせるために、班も新たにして活動させるのがよい。新しい班が決まったら、何についての番組を作るのか(テーマ)を決めてもらう。生徒が作る番組で扱う情報は世の中のニュースから学校や地域のニュースまで、自分のたちが本当に伝えたい内容を見つけてくるようにする。調べ方も自由に、インターネットからでも新聞からでも現場取材からでもよいものとする。ただし、その情報の正確さを失わせないように注意させる。テーマが各班で決まったら発表させ、他の班からテーマについて何を知りたいのかを質問させる。発表した班は質問を基にテーマに関する情報を集める。情報を集めたら班で整理する。そして、その内容が質問で出た内容に答えられているかどうかを確認する。
 活動のねらいは、見る側が具体的に何について知りたがっているのかを理解させることである。
 企画書づくり
次は、班でまとめた情報をどのように発表するかを話し合う。教師は、番組づくり用の企画書のワークシートを作成して、話し合いで決まった内容を埋めさせる。また、ここで発表の際の評価する点もみんなで話し合って決めておく。各班で埋めた企画書のワークシートを提出させて、教師は生徒に対して助言する。
 活動のねらいは、伝えたい内容をどのように伝えれば楽しく伝わるかを考えることである。
 自由に情報バラエティー番組制作活動
企画書を基に準備に入る。班員の役割(司会、パネラー、レポーター、タイムキーパー等)を決め、必要な道具をそろえる。教師は一班あたりの発表時間を決め、タイムスケジュールを作る。そして、各班に発表時間内での進行表を作成させて提出させる。教師は時間的に無理のない進行であるかどうかを確認する。以上が終わったら、各班の練習に入り、発表に向けて取り組む。
 活動のねらいは、班員個人が自分の役割に責任を持つことである。
 発表、後期のまとめ
発表は生徒が作った番組を存分に見せられるように、特別教室のような広い教室での発表がよい。各生徒にで作った評価シートを配り、他の班の発表を見終わった後に記入させる。全部の発表が終わったら、各班の評価シートを集めて読んでもらい、自分たちの班の良かった点、悪かった点をまとめる。
 活動のねらいは、笑いを通して自分たちの伝えたかったことが伝わったかどうかの確認をすることである。
 一年間のまとめ
最後は自分の班員に対して評価シートを記入して渡す。班員のそれぞれに対して、役割からの面での評価と、友達からの面で両方からの評価をして渡す。最後に、前半と後半の発表を振り返り、自分に対して本活動のねらいが達成できたかを確認するとともに、新たに感じたことについて自由に書いてもらう。教師は振り返りの報告をもとに生徒の評価を行う。
 まとめを通してのねらいは、笑いを通して他人と自分の新たな発見をすることと、自分と周りの情報との新たな結びつきを発見することである。
2.単元学習指導案
 年間学習プログラムの中において、前期活動のにおける「笑わせる技術を学ぶ」段階において教師が具体的にどのように授業を進めればよいかを次に提示しておく。巻末の<資料2-1><資料2-2>を見ながら授業の流れを確認してほしい。
(1)本授業のねらい
笑いの制作の技術には「ストーリー破壊型」の笑いと「ストーリー作成型」の笑いとがあることを学習した上で、それぞれの笑いの作成法をゲームによって練習していく。練習によって自分にも人を笑わせることができることを自覚させる授業である。
(2)使用する教材
本授業で必要な教材は次の通りである。
・絵本童話「ももたろう」
・「ももたろう」のストーリーを穴埋めにしたワークシート<資料2-1>
・言葉あわせゲームのワークシート<資料2-2>
・国語辞書
(3)授業の流れ
本授業は「ストーリー破壊型」と「ストーリー作成型」の笑いの制作の練習として、1コマあたり50分の2コマの授業時間を設ける。

<1時間目 童話絵本を使ったストーリー破壊型の笑いの制作の練習>
 4~5人ずつに班を分ける。
 各班に「ももたろう」の童話絵本を配る。
 次にストーリーの1部分を穴埋めにしたワークシート<資料2-1>を配る。
 班でそれぞれの穴埋めを埋めて新しい話を作る。
 童話どおりに配役(新しい役を作ってもよい)を割りふって新しい話に台詞をつけて演じて練習する。
 班ごとに発表する。
 生徒同士による評価をする。

<2時間目 言葉合わせゲームを使ったストーリー作成型の笑いの制作の練習>
 全員言葉合わせのワークシート<資料2-2>を配る
 思いついた言葉を記入してもらう。(辞書などを開いて書いてみるのもよい)
 書いた言葉を切り取る
 2~3人で組を作る。
 お互いの言葉を合わせて面白い組み合わせを作っていく。
 面白い組み合わせの言葉ができたらその言葉に対する説明やストーリーを作ってみる。
 代表の組に発表してもらう。
 授業を振り返る。
 2時間の授業を通してのレポートを提出させて教師が評価する

第三節 総合的な学習の時間における「笑いの制作」を実現するために

 第一節と第二節で取りあげた「笑いの制作」の総合学習プランを実際に授業で導入する前に考えなければならないことがいくつかある。
 まずは実施する学校において、生徒の笑いへの関心度がはじめにどのくらいあるのかを知る必要がある。私が今年6月に教育実習を行った早稲田中学高等学校で次のようなアンケートをとらせてもらった。(1)『あなたは「笑う」ことが好きですか、それとも人を「笑わせる」ことが好きですか』(2)『(1)で「笑う」ことが好きと答えた人に聞きます。人を「笑わせる」ことができるようになりたい、と思ったことがありますか』の2つの質問をした。(1)の質問に対しては、227名(中学1年生から高校3年生までの各学年1クラスずつ)中180名(8割)の生徒が「笑う」ことが好きと答えた。つまり、普段笑うことが多くても、人を笑わせることに関しては技術がわからないためか、その喜びを感じている生徒が少ないことである。(2)の質問に対しては、180名(「笑う」ことが好きと答えた生徒)中112名(6割)が人を「笑わせる」ことができるようになりたいと答えた。この結果からは「笑いの制作」の授業は生徒に受け入れられやすい関心度であると言える。しかし、生徒の笑いへの関心度が低い学校で「笑いの制作」の授業を実践することは困難である。表現活動では、生徒のやる気がはっきりと反映されるので、生徒の意識にもっと人を笑わせることができるようになりたいと思う気持ちはとても大切である。
 第二章第二節で述べたように、人を笑わせる技術は、偶然を意識的に産み出すゲームによっても身につけることができる。そのことを生徒が実感できたならば、笑いへの関心度は高まるのではないだろうか。種々のゲームは日常生活の中でやっても充分楽しめるものである。ならば、そのゲームを紹介して実践できる場所さえあればよい。その場所の例の1つとして教育相談室がある。最近教育相談室では、休み時間や放課後などに子ども達に相談室へ自由にやってきてもらい自由に過ごしてもらう活動として自由来室活動2という活動を行っている。私の通っていた香川県立高松高校では、教育相談室のドアは開けっ放しで、部屋の中には折り紙やぬいぐるみ、マンガ、悩みに関する本などが置いてあり、時々ヒーリング音楽などもかけている。教育相談室のスペースを生徒が気軽におしゃべりをしたり、本を読んだり、絵を書いたりする場所として利用してもらっているのだ。高松高校の教育相談部の教師はある時、生徒に対して次のようなことを始めた。ある生徒に目隠しをしてもらい、その状態で他の生徒に触れてもらう。触れた感触から相手がどのような人に感じたかを伝える。これは生徒が感じたままのことを表現する練習として先生が試みたことである。他にも、じゃんけんをして勝った方は大げさに喜び、負けた方は大げさに悲しむというゲームも行った。先生は「感情をうまく表現できない生徒が多いからだ」と言う。この教師が試みたことと同じように、教育相談室で生徒に対して種々のお笑いゲームをやってみることは、生徒の笑いへの関心度を高めるきっかけになるのではないか。
 次に考えなければいけないのは、「笑いの制作」を総合的学習の時間の中で実践することが学校としての必要性に適っているかどうかの問題である。それは、学校側つまり各々の教師の総合的学習の時間に対する考え方が「笑いの制作」の授業を受け入れてもらえるかどうかの懸念である。総合的学習の時間では「生きる力」を育成するという総括のねらいがある。しかし、最近では学力低下論が蔓延する中、総合的学習の時間の内に計算問題や漢字の書きとり練習を行っているような学校もある3。私は「笑いの制作」の授業を学力低下の阻止として打ち出せるかどうかは分からない。しかし、この授業が学力低下を増進させる遊びとしての授業でもないことは、第二章の第三節において、知識に主体性をもたせるものとして証明できる。私がこの論文において、「笑う」ことと「笑わせる」ことを分けて述べてきたのにははっきりとした理由がある。「笑う」ことは教科学習の中でお笑いゲームをとりいれて暗記の促進効果としても実践できる。しかし、人を「笑わせる」ことは、その技術が生徒にとって身につけられるものであるという気づきをともなうものであるから、その技術を授業原理にあてはめて実践する必要があるからだ。第二章の第三節で述べたことの繰り返しになるが、体育や音楽や美術の授業のように、誰にでも身につけることができる段階の笑いの技術が学校教育の中で位置づけられるべきなのである。
 最後に、人を笑わせることはスポーツや勉強のように得意と不得意な生徒が出てくるだろう。人を笑わせるのがもともと得意な子どもは笑わせる技術を速く理解し、「笑いの制作」の授業に対して楽しみながら真剣に取り組むが、人を笑わせるのが不得意だと思っている子どもは笑わせる技術をなかなか理解できず、「笑いの制作」を見ているだけにならないかという心配がでてくる。しかし、人を笑わせることが不得意な生徒でも、絵がうまかったり、歌がうまかったり、ダンスがうまいなど他のことで目立てる生徒がいることを見逃してはいけない。テレビのお笑い番組を見ていれば、スケッチブックを使った紙芝居コントで人を笑わせる人や、歌を面白く替え歌にして人を笑わせる人や、面白い動きで人を笑わせる人がいたりして、様々な笑わせる手法があることが分かる。同じように、「笑いの制作」の授業の中でも、人を笑わせることが得意な生徒が、歌のうまい生徒を中心とした替え歌コントを作ったり、絵のうまい生徒にあるあるネタの絵を書いてもらったりすることで活動をともに楽しむことができる。そのような協力関係が生徒の間で生まれるように教師は「笑いの制作」の授業の中で心掛けなければならない。

1 梅津耕作、大久保康彦、大島貞夫、袴田明共著 『教育心理学入門』 サイエンス社 pp.17,18,23,27,36,39,45
2 スクールカウンセラーの仕事 http://homepage1.nifty.com/sc/sc01.html 
3 朝日新聞『「塾」のノウハウ学校に』2003年12月14日朝刊教育面掲載

Published: 9月 25th, 2010 at 12:50
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