発言集>西条昇のお笑い教師論-教室にもっとお笑いを!-

『授業づくりネットワーク』(学事出版)1999年12月号特集「教師のための「お笑い」入門セミナー」

西条昇のお笑い教師論-教室にもっとお笑いを!-
取材・構成 上條晴夫


 西条昇氏のプロフィール:1964年、東京飯田橋生まれ。お笑い評論家・プロデューサー。放送作家として「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」でデビュー。「志村けんのバカ殿様」「タモリの音楽は世界だ」「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」「花王名人劇場」など多数のお笑い番組を構成し、現在は主にお笑い小説家、評論家として活躍中。著書に『東京コメディアンの逆襲』(光文社)ほか。現在連載中のものに毎日新聞・週刊金曜夕刊・お笑い研究所、東京新聞・隔週土曜朝刊・いいたい放談、小説宝石・三波伸介物語などがある。ほか、新聞、雑誌に執筆多数。また、お笑い教育推進委員会(電話03-3261-0216)を1999年春に発足。講演会「キレる子供はお笑いで救える!」を皮切りに「教師のためのお笑い実践セミナー」「お笑いこども塾」「全日本青少年お笑い選手権」を実施。お笑い教育ビデオ『西条昇の教室にもっとお笑いを!』(岩波映像販売)発売中。NHK総合「おはよう日本」「首都圏ネットワーク」とフジテレビ「スーパーニュース」で“教室に笑いを”の特集が組まれたほか、朝日、読売、毎日、産経、日経などの新聞にも、西条氏の“お笑い教育”の記事が大きく掲載される。お笑い教育論をテーマにした講演会・セミナーで全国を飛び回る。『お笑い教育論』(新潮社)を出版予定。

1 西条昇のお笑い教育論とは

 東京・西神田の喫茶店「自由席」。太いまゆ毛に、豊かなもみあげ、コメディアンのような風貌の西条昇さんが座っていた。高校を中退して三遊亭円歌師匠の門下に入り、芸人を目指したこともある。バラエティ番組などの構成作家を経て、現在はお笑いに関する執筆活動やお笑いライブのプロデュースを手がけている。

 お笑いの評論家である西条さんがなぜ教師に向けて“お笑い教育の必要性”を語ろうとしたのか。その動機について聞いてみた。
 「動機は三つ。一つ目は自分自身の体験です。ボクは、学校は休みがちだったけれども、お笑いに夢中だったことで精神的なバランスを取ることができたという実感が強いです。小学3年生から寄席に通いはじめて中学の時は3分の1ぐらいは学校をさぼって劇場に行っていました。遠足のバスの中では落語や漫才のマネをして友だちを笑わせていました。特に勉強ができなくても、みんなの前に立って笑わせることで存在感を示すことができた。笑いの効力をその頃から実感していたわけです」
 「二つ目は当時から学校の授業や評価のあり方に矛盾を感じていたことです。国語や社会は好きで5段階評価の5だったんですが、体育や技術は嫌いで1でした。公立だと内申書は全科目の合計で評価され、受験できる高校も限られてしまう。何かおかしいと感じていました」
 「親や先生が下す評価は『勉強ができる子はエライ』という一個の価値観だけしかない。それほど勉強は好きじゃないという子が残り9割、8割もいるのに勉強だけで自分の一生を左右するような評価をされたら子どもたちはストレスがたまるばかりだと思います」
 「三つ目は最近こそ笑いの持つ力が認識されるようになってきましたが、日本ではまだまだ笑いを低く見下す傾向があることです。PTAの人たちはいつも『お笑い』をテレビのワースト番組に挙げます。でもドリフターズの『8時だよ! 全員集合』を見てグレたっていう話を聞いたことありますか。笑いにはいろいろな効果がある。お笑いも文化なんだと訴えることが、お笑い好きとして生まれてきたボクの天命かと思っているんですよ」

 では、そのお笑いの効用とは何か。つまり「キレる子どもや荒れる子どもたちにお笑いはどう効くのか」という質問をぶつけてみた。
 「笑いには精神を一瞬開放する作用があります。つらい時でも、冗談めかして『かなわんなあ』とつぶやくことで、フッと気分をやわらげ、客観的になることができます。笑いのセンスが身についていれば、シャレにならないことを言えば、けんかになったり、人を傷つけてしまうことが分かるし、いじめられる側も切り返すことができます。精神的に追いつめられるまえに、ガス抜きできる。いまキレる子というのは笑う余裕すらなくなっているんです」
 「本気で『お笑い』を小中学校の授業科目に加えるべきだと思います。勉強ができて一流大学を出て一流企業に就職できたとしても、いつ倒産やリストラにあうか分からないような時代です。がんばって勉強しても将来的に何に生かすかと聞かれても何もない。二十~三十才代になっても『自分探し』している人が増えてきている現状です。だったら笑いを通じて他人とのコミュニケーションをとるすべを身につけた方がよっぽど役に立つ。子ども時代は心も頭も体も最も柔らかい時期なんですから」

2 お笑いの基本技ベスト5とは

 教師は「生徒たちの感性・個性を引き出す役割を担うべき」というのが西条さんのお笑い子ども論の骨子である。
 子どもたちの誌や作文、音楽活動を理解するのと同じように子どもたちの「お笑い」活動を理解してやることが大切だという。そのためには教師が「面白いことができる」というよりも「面白いことがわかる」「面白いことが感じられる」感性を持つことが大事だという。
 そのための具体的方法としては本号特集でも詳しく紹介する「お笑いゲーム」などをつかって子どもの笑いを引き出す。ゲームの中で出てきた笑いに「なるほどなあ」と共感したり、笑いをかぶせたりする。できればボケ返してやったりする。それには「お笑いの基礎知識」が必要である。
 以下、そのお笑いの基礎技術を聞いた。
 1 つかみ
 つかみとは「舞台に出て一番最初にやるギャグ(面白おかしい台詞や仕草)のこと」である。お客さんの心を引きつける技術である。中田雅秀著『笑解・現代楽屋ことば』(湯川書房)には「客の興味をつかまえること。テレビでは最初の数分間のつかみが弱いと他のチャンネルに切りかえられる」と説明してある。
 教師も授業に入る前の2~3分を「この前、こんなことがありました」とつかみトークをくり返すことでつかみの技術を磨けるという。
 2 ネタふり
 笑いを創り出すための設定的な話をすることを「ネタふり」という。「これをやってみて」とあることを話させたり、やらせてみたりする。単に「ふり」または「ふる」とも言う。
 西条さんのお笑いセミナーではこのネタふりの部分を「お笑いブーム」でやる。たとえばジャニーズ事務所・社長のジャニー喜多川さんがやっていたという次のようなトレーニングである。40人くらいのジュニアをまわりに集めて、「今から質問するから、思いついた答えがあったら、大きな声で話してごらん」と言う。「生まれ変われるとしたら何になりたい」とか「今一番したいことは」と聞いていく。すると子どもたちから次々と答えが返ってくる。その一つ一つの答えに「今の発想は面白いねえ。どうしてそう思ったの」とか「君はいつも真っ先に答えて偉いね」とフォローしていく。すると、子どもたちはここではこういうことを言ってはいけないんだとか、ここで気のきいたことを言おうと判断できるようになるという。と同時に、このゲームを仕切る先生の「ネタふり」「フォロー」「ツッコミ」の技術も磨かれていくそうだ。
 3 ボケ(落ち)
 面白いことを言ったりやったりすることをボケという。あるいは面白いことを言ったりやったりする役目の人のことをボケという。ちなみにボケの言う面白い台詞を「落ち」(漫才)や「下げ」(落語)などという。
 一般的には「バカな人」「バカなことを言うこと」と取られがちだが、要するに一般常識を持った人が、わざとバカなことを言ったり、くだらない行動をとったりするのである。つまり演技をする。ただしお笑い芸人の中には「天然」と呼ばれる「行動、言葉が一般の人が考えつく行動や言葉ではない」独特のキャラクターを持った人がいる。たとえば間寛平である。
 4 ツッコミ
 ツッコミというのは「いい加減にしろ」とか「バカなこと言ってんじゃないよ」などのようにボケやおかしい要素を指摘することでお客さんにここが笑いのツボだと伝える役目を持つ。
 ボケの度合いによって「おいおい」「あのね」「もしもし」のような軽いツッコミから「違うって」「なーんやそれ」「アホいえ」などのようなあきれた調子のツッコミ、そして「いい加減にしろ」「こら~」のように大きな声で最後のボケ、落ちに対して用いられる大ボケ用ツッコミ、「それじゃあ、まるで“陸にあがったトドの死体”みたいだね」「“田舎の薬剤師”じゃないんだから、そのカッコウはないでしょう」といったように具体的な“見立て”の言葉を盛り込んで笑わせる指摘ツッコミまでさまざまなバリエーションがある。
 またバラエティ番組などでお笑いの人同士が一緒になるときによく使うテクニックの一つに「のりツッコミ」がある。「あんたバカだろ」「そうそう、わたしはバカで……違うよ」という具合に使う。ちょっと素人には難しいが、コツさえつかめばわりと簡単にできて笑いを取りやすい(?)技術であると言われている。
 5 フォロー(ひろい)
 笑いを外してしまった場合の、その不安感を解消するための技術。「言葉」「リアクション」「間」による方法がある。
 素人には「いまいちでした~」のように少し胸を張って明るく言い放つ言葉によるフォローが一番無難という。リアクションによるフォローは「エーッ」「オオーッ」のようにやや大げさな反応をして見せることを指す。間によるフォローは受けなかった時のしらっとした間を逆利用し「………はいっ」と次につなぐ。このフォローは、教室での子どもとの対応に大切な技術と言えそうである。

3 お笑いの腕を上げる方法とは

 最後に「子どもたちのお笑いセンスや個性を引き出すため、教師のお笑いの腕を上げるにはどのようなことが必要か」を聞いた。
 1 お笑い=不謹慎の考えの転換を
「まずは先生たちが笑いの力とかコミュニケーションの重要性について正しく認識することです」「お笑いは不謹慎だという考えがまだまだ先生方にあります。でもコミュニケーションの基本である笑いを身につければ会話に余裕やリズムができて人間関係がうまくいきます」
 2 いま受けているものを体験せよ
「教師自身が感性を磨くことです。そのためにはいま子どもたちに受けているものを実際に見たり聞いたりする」「本でもよいし映画でもよい。その他の芸術でもいい。子どもと同じものを面白がってみるということです」
 3 ミッドフィルダー芸を磨こう
「明石家さんまがTV番組でやる多人数トークが教師の参考になります。ぼくはサッカーにたとえて『ミッドフィルダー芸』と呼んでいるんです。一人一人の個性を見ながらパスを見ながら回してボールをけらせてやるんです。あまり発言しない子に突然ふって、『天然』のキャラクターを引き出したり、面白い言葉を返す子にはツッコミを入れたり、ウケてやるんです」

(この文章の転載にあたっては、執筆者・編集者の許諾を得ております)

Published: 9月 23rd, 2010 at 17:46
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