巻頭言「見守る技術と言葉かけの技術」(上條晴夫)

巻頭言
見守る技術と言葉かけの技術-「お笑い教育」研究序説-
(お笑い教師同盟代表 上條晴夫)

(1)お笑い教育に着目した理由

わたしが「お笑い教育」に着目したきっかけは学級崩壊だった。1997年10月号から本誌で2年半、学級崩壊をテーマにした緊急連載を行った。第1回タイトルは「『学級崩壊』がはじまった」である。
取材で学級崩壊について様々な興味深い事実を知るが、たとえば、次の3点は学級崩壊の焦点と呼んでいい事柄であった。

1 子どもたちは授業より「私語・立ち歩き」が大事と考えはじめた。
2 クラス替え後にクレヨンシンちゃんの物真似が急増する。
3 子どもたちが授業で一番嫌いなのは「教師の話」である。

いずれも社会の同質性の高さを前提にした省エネ型学校コミュニケーション文化が壊れはじめたことを示唆していた。
崩壊クラスを体験した教師たちは、口をそろえるように「従来の真面目一方の学校コミュニケーションでは無理がある。教師はもっともっとエンターテナーになる必要がある」ということを発言した。

(2)「見守る」ことと「言葉かけ」

1 お笑い教育を試みる心構え

お笑い教育研究の第一歩は「授業づくりネットワーク」が授業研究の方法として採用している「ストップモーション方式によるビデオ検討会」の形式で行われた。
1999年暮れ、東京・駒場で「お笑いに学ぶ」をテーマの研究会を実施した。「やっぱりさんま大先生」というフジテレビ系のテレビ番組を分析の対象にした。
映像の中で子どもの笑いが絶えない。どこで笑いが起こるのか。なぜ笑いが起こるのか。20人ほどの参加者で検討した。
およそ以下の4点がわかった。

1 子どもの話をひと言ひと言「うん」「うん」と肯定しながら聞く。
2 集中して話を聞き、細かい所も聞き逃さない。
3 速く大きなリアクション。
4 子どもの答えが質問からずれたり、要領を得なかったりしても、最後まできちんと話を聞く。否定しない。

いずれも当然のことのようだ。しかし、正答中心主義の授業ではこんなことさえもできない。「誤答(=とりあえず口にした子どもなりの発言)にやさしい」ことがお笑いコミュニケーションの要諦である。

2 空気を温めるバラエティーゲーム

お笑い教育研究の第二歩はお笑い評論家の西条昇氏による「教師のためのお笑い講座」の実施である。西条講座は次のようなゲームを中心にしたメソッドだった。

【お笑い勝ち抜きあるあるネタ合戦】
1 なるほど、あるあるといいたくなるようなひとことネタを考えさせる。
2 一対一の勝ち抜き戦方式で発表をさせる。
3 発表の際に「あるあるネタを言ってみて!」と全員で掛け声をかける。
4 どっちが「あるある」と思ったか、多数決で勝敗を決める。
5 教師は進行役になり、時には勝ち抜き戦に参加をする。

ゲームを使うことで子どもたちと笑いを共有できることが大発見だった。これまで教育の中の笑いと言うと、落語をモデルに教師が面白おかしいことを言って子どもたちを笑わせるというものが多かった。
しかしバラエティーゲームのようなゲームを使った笑いづくりでは子どもの個性を引き出すことができる。また教師は子どもを見守りながら教室のあたため方のコツを自然に身につけることができる。
大西忠治著『遊びイベント上達法-教師の指導力をどう高めるか-』(民衆社)の冒頭に「遊び指導は教師修行のフィールドだった」という短い次の一文がある。
「私は子どもの遊びの指導を通して、教師としての指導力を身につけてきたし、子どもの遊びを指導しながら、子どもを見ることができるようになったのである。/そして授業も--この遊びの指導の中でその指導方法を覚えたのである」
子どもを見守り、その子らしさを引き出すコツを教師は遊び指導の中で身につけてきた。バラエティーゲームをすることで教師は子どもを「見守る技術」と「言葉かけの技術」(フォロー/ツッコミ)を学べる。

3 教師のための「お笑い」構造学

お笑い教育研究の第三歩は笑いの発生に関わる理論づくりだった。西条昇氏のワークショップは「ゲーム」という方法論は面白かったが、理論の部分が弱かった。
お笑いのプロでもある西条氏には当然の笑いづくりも不器用教師が試みるには「お笑い構造学」のような理論が必要だった。
わたしの書棚にあった百冊を越える「お笑い」関連書の中から、「笑いはフリでありオチでありフォローである。このセットしか笑いっていうのはない」(萩本欽一)という「笑いの公式」を探し出した。

1 フリ…これから展開するギャグの状況・設定を知らせるネタをふる。
2 オチ…ネタをふることで見ている人が次の展開を予想・期待する。そこで予想・期待したことと違うことをする。見ている人の期待を裏切る。
3 フォロー…オチ後の空気を調整して次の笑いへ進むマトメをする。

たとえば、高視聴率を誇る「さんまのスーパーからくりTV」というテレビ番組を例にして幾らか具体的に説明をする。
「からくりTV」の冒頭コーナーは海外VTRをネタにし、さんまが中心になってパネラーたちがどれだけボケ合戦をするかの「大喜利」である。全ての VTRが大喜利のためのフリになっている。番組の構成会議では「このVTRでどういう出題をしたらいいか」「どれだけボケられるか」を構成作家などが考え る。「こういうボケができる」「こういうボケもできる」「じゃあこれはイケるね」などと確認をする。
クイズ番組の形を取っているが「お笑いバラエティ」である。「VTR+出題」がフリで、回答者は「ボケ」をするのが役目。司会のさんまが「ウケ」芸で空 気を調節したり「ツッコミ」芸で笑いを増幅する。この理屈がわかると、前述のバラエティーゲームでの教師の役割がよく理解できる。

4 教室でお笑い技術を使う留意点

お笑い教育研究の第四歩はバラエティーゲームなどの「フォロー/ツッコミ」を教室場面に応用する際の留意点である。
およそ次の三つの留意点がある。

1 定型でつっこむ。
2 目が笑っている。
3 手を添えている。

子どもの発言にツッコミを入れるには定型ツッコミが便利でよい。いまであれば流行の「~かよ」(三村マサカズ)だろう。これまでツッコミ用語がなかった関東圏で「そのまんまかよ」などの「定型」によるツッコミがようやく可能になった。
定型ツッコミを行うことで子どもたちとの間に「ここは笑ってよい場面だと」いう暗黙の了解が成立する。この「~かよ」が難しい場合は「おいおい」「あのね」という小ボケ用のツッコミがお薦めである。
ちなみにツッコミは「怒ってみせる」という演技である。「目が真剣」だったり「体が緊張」していたりすると、本気で怒っているのと区別がつかない。「目 が笑う」「相手の体に手を添える」などの非言語的方法によって「ここは笑ってよい場面」だと子どもたちにはっきり示す必要がある。

(3)お笑い教育の授業への応用

お笑い教育の発想を実際の授業に応用した例として藤川大祐氏(千葉大学)が 大学の授業(道徳教育研究)で中学生対象の次のような模擬授業を行っている。(メールマガジン「授業づくりネットワーク総合的学習21」2000年1月17日号)
授業は「(最近嫌な殺人事件が多いが)、こうした殺人事件を扱ったテレビ番組で中学生が『どうして人を殺してはいけないの?』と質問したそうです。あなたなら、この中学生にどう話しますか」と聞く。
少し時間をとって考えさせた後、生徒に発表させ、一人発表するごとに板書をする。それにツッコミを入れたりリアクションしたり、他の生徒にふって話を深めていく。
テレビ番組「恋のから騒ぎ」の進め方を真似たのだそうだ。「から騒ぎ」では一つのテーマに対する回答者それぞれの答えにさんまがツッコミを入れながら話 を進めていく。藤川氏は「この構造を作りたかった。学生が16名と少なく、教師である私も全員の氏名やある程度の個性を把握していたこともあって、生徒役 の学生たちとのやりとりは深まったように思う」と報告する。
授業でもこのような形で導入をすれば、お笑い技術の応用は可能だろう。要するに「正答中心」でない授業で「子どもの話の筋道を聞き取る」授業を作るのであれば、この「多人数トーク」モデルは使える。

(『授業づくりネットワーク』(学事出版)2002年10月号掲載)

Published: 9月 12th, 2010 at 21:48
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